次の日、花提灯の材料を持って山に来た。
道は昨日覚えたし、わざわざ迎えに来てもらうのも申し訳ないと思ったからコクトには神社で待ってもらっていた。

「これが一応お手本なんだけど、作り方を」

「いい。もう知ってる」

「え?」

エマの手から材料の入った袋を取り、紙を折り始める。

「前に作ってただろ?それ見て覚えた」

前に……あ、コクトがドールハウスで休んでいた時に近くで作業してたっけ。あの時、起きて見てたんだ。
でも本当にあれだけで?私でも覚えるのに丸一日かかったけど。
迷いなく進めるコクトの手元を見ていると。

「ほら、こんな感じだろ?」

「うん、合ってる」

スズラン型を作ってくれたけれど、私が作るより数倍早い。それでいて丁寧だし、手際が良い。


「私が作るより全部コクトに任せた方がいいのかも」

「お前どんくさそうだもんな」

「そんなことないよ!?」

「分かったから早く掃除しろ」


コクトは私に背を向けたまま手で追い払う仕草をしてみせる。
私が自慢できる唯一の特技だったのに、こうも簡単にこなされると、なんだかショックだ。


その悔しさを晴らすべく、私はひたすら壁の煤を落とした。



❀.*・゚



それからは毎日、私が神社の掃除をしている間、コクトは花提灯を作ってくれた。


「へー、だいぶ綺麗になったじゃん」

「中はね。所々抜けそうな床とか雨漏りしてる屋根以外は一通り磨いたよ」


入口から見ても以前より綺麗になったのが一目で分かる。
キラキラ光って見えているのは間違いなく、太陽の日差しだ。

そして今日からは外の壁を磨いていく。
ずっと暗くて汚れの溜まった重たい空気の中にいたせいか、久しぶりの外での作業で開放的になれる。
それに、同じく外で花提灯を作ってくれているコクトとも距離が近くなるし、自然と心が軽くなった。



「それにしても、どうしてコクトは一人で残ってたの?」

壁に布を押し当てて拭き掃除をしながら、日陰で作業をしていたコクトに声をかけた。


すると動かしていた手が止まり、コクトは小さい声で何かを言っていた。

「え、ごめん聞こえなかった」

「たから!じゃんけんで負けたんだよ」

「じゃんけん?」

「そうだよ、悪いか」

最後に誰が残るかをじゃんけんで決めるたんだ。
それにしてもトマト以外にも弱点があったなんて。

「弱いの?じゃんけん」

「あの時はたまたまだ」

ここまで言われて試さないわけにもいかないと思ったエマは、コクトの前に回り込んだ。


「じゃーんけーん」

ぽい。


私はパーで、コクトはグー。

「……たまたまだ」


その後三回やって、三回とも私が勝った。

「もう一回やっとく?」

「いいよもう!」

コクトはエマに背を向けて再び花提灯を作り始めた。
じゃんけんに関して、私も特別強いわけではないけれど、コクトがここまで弱いとわざと負けているようにも思える。でも、反応を見る限り本当に弱いんだろうな。


「あ……」

エマは後ろから見えたコクトの耳が赤くなっていたことに気づいた。
今までなにかと言い負かされていたから、初めて勝てた気がして優越感に浸っていたけれど、このギャップには少しだけ胸をくすぐられた。