願う未来の花提灯



「ねぇお祖父ちゃん。小人って見たことある?」

夕飯の並んだテーブル越しに訊ねると、お祖父ちゃんは驚くことなく答えた。

「この世に存在しない者などいない。出会ったのなら、もてなすのが良いと思うぞ」

「もてなす」

そう言われて余った食材を小さくカットし、お皿に盛り付け、自分の部屋へ運んだ。

食べてくれるかな。

不安に思いながら再びドールハウスにいる彼に声をかけた。見るとソファーに座ってくつろいでいる。

「夕飯作ったんだけど、食べる?」

ドールハウスの小さなテーブルに、持ってきたお皿を乗せる。

彼は何も答えなかったが、黙って料理の前に座ってくれた。


よかった、食べてもらえそう。
安心した私は後片付けをしに部屋を出ようとした。
その時。


「ゲホッ、ゲホッ……」

むせる声が聞こえて咄嗟に振り返った。

「どうしたの!?」

慌ててドールハウスの中を覗くと、顔色が悪くなった小人がこちらを睨んだ。

「おい!なんでサラダにトマト入ってんだよ!」

「えっ!?」


確かに今日のサラダにトマトは入れたけれど、もしかして嫌いだった!?

「ごめんなさい!苦手なもの知らなくて……」

迂闊だった。口を聞いてもらえなくても、とりあえず好き嫌いは確認しておくんだった。
これでまた嫌われたかもしれない。


「やっぱり人間なんて信用するんじゃなかった」

水を飲み干した彼は家から出て、テーブルの隅まで歩いて来た。


「俺をこんなとこに閉じ込めてどうするつもりだ。おまけにこんなもの食わせて、殺す気か!」

「いえいえそんな!怪我をしてたから手当して」

「そんなの放っておけば治る」


駄目だ。この子絶対機嫌悪いし、私の話を聞いてくれそうにない。

縮こまる私に容赦なく言葉が飛んでくる。


「いいか!そもそも人間共は俺たちのことなんにも分かっちゃいないんだ。毎年毎年うざったいお祈りごっこなんかしやがって、こっちは迷惑してんだよ」

「えっ……」

文句を言う彼の体が浮き上がっているように見えた。
今まで気づかなかったけれど、背中に羽が生えている。

「そもそも人間より俺たちの方が先に住んでたのに土地を奪いやがって、何様のつもりだ」

あっという間に私の目線と同じ高さになった彼は、ビシッと指さした。


「今すぐお祈りごっこを中止しろ。さもなくばお前を呪う」

「え!?ちょっと、何が何だかさっぱりなんだけど。さっきからなんなの?お祈りごっことか、土地を奪ったとか」


混乱している私を見た彼は、頭を抱えながらため息をついた。

「お前何も知らずにあれを作ってたのか?頭にお花でも詰まってるのかよ」

あれとは花提灯のことだろうか。
何も知らないと言えばこの子の正体もまだ知らない。

「そういう君こそ誰なの?飛ぶ小人なんて聞いたことない」

「俺は小人じゃない。あやかしだ」

「あやかし?」

街で噂の、あのあやかし?この小さいのが?

「言っておくが、これは俺の分身だ。本体は山にいる。俺は天狗だからな」

「天狗!?」

本で見たことはある。けれど、私が知っている天狗は顔が赤くて鼻が長い。彼のように羽が生えていることは知っているけれど、こんな可愛らしい顔はしていない。


「分かったよ。お前にも分かるように説明してやる。ありがたく思え」

そしてなぜこんなに偉そうなのか。

私は天狗と名乗る彼から話を聞かされることになった。