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花提灯祭り当日。

賑わう街の通りでは、色鮮やかなランタンが飾られ、出店には目を奪われる食べ物が並ぶ。
見慣れた野菜や果物の他にゼリーやドリンク、飴細工など祭りならではの品に胸が踊る。どこかの島で取れた可愛らしい砂や、不可思議なものが見える鏡、音の鳴る箱、興味をそそる小物も多数取り扱う年に一度の長い夜。
花壇に咲く花々に照明を当て、優しい温もりの色が道を示す。水の溢れる噴水広場にランタン明かりの水波が広がる。

店主も客も、皆笑顔を浮かべて楽しんでいる祭りは、ここ数十年で一番の盛り上がりを見せた。


フィナーレを飾る花提灯が街人の手に渡ると、ロウソクに火が灯される。

「では皆様いきますよー!せーのっ!」

アナウンスと同時に、手元にあったオレンジ光りの花提灯が一斉に夜空に舞い上げられた。
一人一人の願いを乗せて、終わりのない空へ放たれた輝きは、幻想的で美しく、皆の記憶に刻まれた。


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「綺麗だね」

「そうだな」

私はコクトに連れられて山にある一番大きな木の上で夜空を舞う花提灯を見ていた。
空を見上げる瞳から赤色は消え、いつもの緑色をしている。
丈夫な枝に並んで座る二つの影。ここからの景色は誰も知らない。

「みんな、ちゃんとお願いしてくれたかな」

「ちゃんとエマの思いは届いてるから安心しろ」

私が街で思いを叫んだ日から、街人たちはあやかしを崇め奉るようになり、しばらくコクトが頭を抱えていた。

「明日からは他のあやかしたちも帰って来るだろ」

「楽しみだね」

「騒がしくなるのはごめんだ」


他愛のない話をして花提灯と一緒に今日が過ぎていくけれど、初めて会った日から変わらないこの場所で、二人の時間は続いていた。


「はい、これ」

コクトが差し出してくれたのはバラの花提灯だった。

「余り?」

「お前、毎年自分の分作ってなかったのか?」

「あー……」

いつもは制作と当日の景色で満足していたから、自分の分のことなんて考えていなかった。

「どんくさいやつ。これは、俺たちの分だ」

そう言ってコクトが指を鳴らし、ロウソクに火を灯す。


「あれ、赤色だ」

灯されたのは赤い炎。
私たちの花提灯は赤色に光る。

それは本物のバラのように繊細に作られていて、雨上がりの花びらに乗る雫を表現した白い輝きが散りばめられていた。

確か、赤いバラの花言葉は。


「好きだ」


赤いバラを手にしたコクトは、真っ直ぐエマを見つめていた。
手元で灯る赤色の炎から視線を上げたエマの頬も赤く色づいている。


「明るくて、前向いて突っ走る真っ直ぐなお前が、好きだ」

凛々しい表情とは裏腹に、どこかぎこちないけれど、赤く染る耳と台詞回しはいつも通りで思わず笑みが零れてしまう。

その気持ちに答えるようにエマはそっと手を伸ばし、バラを持つ手に重ねた。


「私も、好きだよ」


愛おしいとは、この感情のことを言うのだろう。
少し震えていたコクトの手を優しく握る。

「ありがとう」

二人の思いが重なるバラを空へと舞い上げた。



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空に舞う花はゆっくりと遠のいていくけれど、街の灯りはまだ続いている。
熱の残る身体に風を感じながら、好きな景色を瞳に映し、隣に座る彼女に声をかけた。


「今までずっと言ってなかったんだけど、本当はあの神社にあやかしがいるわけじゃないんだ」

「え!?」

想像通りの反応に思わず笑いが込み上げる。

実は奥に扉があって、そこを抜けるとあやかしたちが暮らす街に続いてることを話すと彼女は食いついてきた。


「エマさえよければ、今度連れて行ってやるよ」

「いいの?」

心地の良い明るく弾んだ声が返ってくる。
俺はそれに答えるように頷いた。

「あぁ」


叶うなら、これから先も一緒にいたい。
隣で微笑む愛おしい存在を思いながら空を見上げた。


終わらない空に咲く花に、終わらない未来を願おう。