「この辺りはマガンダでも珍しく小麦や野菜が穫れる。金を払って買い取っているらしい」

「調理人や、使用人はどこから?近隣の集落から集めているのですか?」

「ああ、そうだ。ただ、屋敷の出入りが許されているのは女子供だけだ。部下が何度も潜入を試みたが門前払いだった」

どうやら議論し尽くしたという話は嘘ではないらしい。

「貴方方はとても木こりや農夫に見えませんものね。私が門番でも追い返しますわ」

ラルフという切り札を持っている以上、屋敷の警備は厳しく、潜入するには覚悟と度胸が必要だ。

幸運なことにマリナラはそのどちらも持ち合わせている。

「……私が行きましょう」

「はあ!?」

キールはもはや取り繕うともせず大声で叫んだ。

「この中で屋敷に入れる可能性があるのは私しかいないでしょう?それともニキ様にお願いしますか?村人に混ざって使用人の真似事などとてもできないでしょうに」

これにはキールも押し黙った。

普段のニキの様子を知っているキールからしたら、使用人として屋敷に潜入させるなど論外だ。剣より軽い物を扱えないのがニキである。

「さあ、これ以上議論している時間はありません。すぐに準備を始めましょう。ジャン、やれるわね?」

「はい、お嬢様」

マリナラに付き従い気配を消していたジャンは静かに呼びかけに応じ、瞬時に飛び去って行った。

「ニキ様、10人程兵をお借りできますか?このお二方とは似ても似つかぬ兵士らしくない方が良いです」

「ええ、構いませんよ。すぐに準備させます」

「キール様とハモン様は砦に残ってサザール平原のマガンダ兵を監視していてください。文句はなしですよ。軍務司令官の命令ですからね」

「……勝算はあるのかよ」

「自慢ではありませんが、私……勝負事で負けたことがございませんの」

マリナラが張り切ってそう言うと、キールはあからさまに不愉快を露わにした。

それぞれの役割が決まったところで、会議は一旦終了となった。

ただ、マリナラにはひとつだけ大きな疑問が残った。

(……なぜララ姫はこの屋敷に滞在しているのかしら?)

他にも貴族の邸宅はあるが、なぜ辺鄙なこの屋敷を選んだのか。

それが、どうしても解せなかった。