(尾けられているな……)
サザール砦に戻る途中であったキールは背後から忍び寄って来る殺気を感じ、あえて適当なところで馬の脚を止めた。
「出て来い!!いるのは分かっている!!」
キールが呼びかけると森の茂みから、武装したマガンダ兵が5人出てきた。
「5人ね……。まったく、舐めてかかるのもいい加減にしろってーの!!」
キールは先ほどの憂さを晴らすように剣を抜くと、先手を打ちマガンダ兵に切りかかった。
キールの後をつけた目的は口封じに違いない。目的を達し用済みとなったキールを馬鹿正直に砦へ返す理由がない。だが、舐めてもらっては困る。この程度の兵ではレジランカ騎士団副団長の足止めにもならない。
キールは鮮やかな手つきでマガンダ兵5人を戦闘不能にすると、悠々とサザール砦へと帰還した。
砦に戻るとすぐにハモンとニキを指令室に呼び、作戦の失敗を告げた。作成失敗どころの話ではない。ララ姫にラルフを攫われたのは完全に誤算だった。
「それで……殿下はいずこに?」
「部下に馬車の後を追わせています。まもなく連絡が入るでしょう」
キールの言葉通り夜の帳が降りきった深夜、ラルフの後をつけさせた二人の部下のうちひとりが砦にキールの元に報告にやって来た。
「ラルフ団長はジータ川の上流にあるマガンダ貴族の邸宅に連れて行かれました」
「わかった。すぐに助けに向かう。案内しろ」
「キール副団長、それは無理でございます……。邸宅の周りは無数のクルス兵で固められているのです」
部下の話によると邸宅の周りだけでなく近場の村にもクルス兵が配置されており、正攻法でラルフを奪還するには相当な戦力を割かねばならない。
マガンダよりも数の上では劣っている今、ラルフを助けるために兵を割るのは得策ではない。
「くそっ!!やっぱりあの時無理を承知で団長と逃げれば良かったんだ……!!」
「落ち着きなさい、キール。今更後悔したとしても状況は何ひとつ変わりませんわ」
ニキはキールを慰めなかった。この程度で挫ける男が副団長など片腹痛い。
「殿下がいらっしゃらない今、キールお前が全軍の指揮をとれ。代わりに私が右翼を受け持とう」
北方騎士団団長としてキールよりも修羅場の数を踏んでいるハモンも動じることはなかった。
「殿下が何もするなと合図を送った以上、何か策があるのだろう……。我々に今出来ることは、殿下不在の明日の戦いを耐え抜くことだ」
しかし、ハモンの願いも虚しく翌日のマガンダとの決戦は混迷を極めた。