「ラルフが……捕まったの!?」

「まもなく、全閣僚交えてこの事態にどう対処するか議論致します。アサイル殿下もご出席を!!」

「それはえらいこっちゃ!!」

アサイルは重そうな身体を椅子から持ち上げると、速いとは言えない動きで駆け出した。

「殿下、お待ちください!!」

「ぐえ!!」

走り出すと同時に後ろから襟を掴まれたアサイルは危うく窒息するところだった。

「万が一ラルフ様がお亡くなりになった場合、王庫にある金はどうなります?」

「今、それどころじゃないんだよ!!」

「いいから、教えてください!!」

アサイルの首を締め上げるマリナラだって必死である。なにせラルフには2億200万ダールの支払いが残っているのだ。

「配偶者と子供がいない王族が死んだ場合、王庫にある財産は全額国庫に戻されるけど……?」

アサイルの答えを聞くと、マリナラはゆっくりと手の力を緩めた。

(ああ……!!なんてこと!!)

いっそのこと悲鳴をあげてしまいたかった。

「ラルフの処遇について決まったら君にも知らせるから、くれぐれも早まった真似はしないでくれよ!!」

アサイルは巨体をゆさゆさと揺らし、今度こそ遣いの者と一緒に走り去って行った。

「ラルフ様が死んだら何もかもが台無し……」

今なら別れの際に感じた寂しさなど、一時の気の迷いだと断言出来る。

マリナラはキッと顔を上げ、たちどころに気を持ち直すとジャンに素早く指示を出した。

「ジャン、今すぐ別宅に戻って馬を用意なさい。うちで用意できる最も速い馬よ」

「お嬢様、どちらへ?」

「愚問ね。2億とんで200万ダールを回収しに行くに決まっているでしょう」

マリナラは走りにくい踵の高い靴を脱ぎ捨てジャン渡すとドレスの裾を持ち上げた。

「その前にあのいけすかない王太子に宣戦布告してくるわ」

「行ってらっしゃいませ」

主人に忠実な執事は深々と頭を下げ、その勇姿を見送ったのだった。