エミリアがあと一日あと一日と何度もねだるものだから当初の滞在予定を過ぎてもマリナラはなかなか解放してもらえなかった。
懇願をなんとか振り切り、レジランカに戻ったのはラルフが北の砦に旅立ってから7日後のことであった。
マリナラはレジランカに戻ったその足で王城へと向かった。
アサイルへの面会を求めると、事前に申し合わせてあったのかすんなりと話が進んだ。
「アサイル殿下、ラルフレッド殿下の婚約者のレインフォール伯爵令嬢がお越しです」
「入ってくれ」
案内役は扉を開けアサイルの応接室にマリナラを招き入れると、一礼して立ち去っていった。
「お初にお目にかかります。マリナラ・レインフォールと申します。北の砦に向かったラルフ様に代わりまして、お借りしていた馬車を返しに参りました」
「君がマリナラ殿か?」
アサイルは大きな身体に不釣り合いな小さな椅子に窮屈そうに座っていた。
「はい、殿下。以後お見知りおきを」
アサイルはラルフご執心の令嬢を上から下までじっくりと眺めた。不躾とも言える視線を送られてもマリナラは微動だにしない。
「離宮から旅立つ際にエミリア様からアサイル殿下宛の荷物を預かりました。どうぞお納めください」
マリナラの代わりに荷物を運び入れたジャンは一番上に積んであった木箱の蓋を開けた。
「ランガの実!!それもこんなにたくさん!!」
ランガの実は育てることはもちろん、荷運びの扱いが非常に難しい果実である。揺れや傷に弱く、大量に荷馬車に乗せたとしてもその多くは腐ってしまう。
それ故にランガの実は乾燥させて運ぶのが普通であり、生の果実をお目にかかることは非常に稀である。生の果実は大変美味で栄養価が豊富なため、貴族の間で人気がある。
「綿を敷き詰めた木箱の中に実を収めましたの。人の手で運ぶより、多くの実を運ぶことができますわ」
マリナラは離宮で採れたランガの実を全て生のまま運び入れることに成功していた。
「なるほど。ラルフが言っていたように、頭が切れるみたいだね」
「恐縮です」
アサイルはマリナラにそれなりの評価を下した。
マリナラはマリナラでアサイルが話の通じるまともな男だと認識した。
……ラルフとエミリアが慕うぐらいだから変人には変わりないだろうが。
ここへ来る途中に見た青の宮はとても歴史ある王城の一角とは思えなかった。