ナイジェルは軍議を終えると、天幕でひとり酒を飲み寛いでいた。
明日から繰り広げられるリンデルワーグとの戦闘のことを思うと血沸き肉躍り、自ずと気分が高揚した。
前任者のカール将軍はとんでもない臆病者だった。北方騎士団などという田舎者の集まりに手を焼き、リンデルワーグから領土を奪うことはおろか、国境線を越えることすらままならない始末である。
(愚かな……)
ナイジェルにとってそれは怠慢である。なすべきことをせず、安穏と日々を過ごすなど愚の骨頂である。カーン将軍が左遷されたのは至極当然の流れといえよう。
(……私は違うぞ。私こそがリンデルワーグを国王陛下に捧げるのだ)
ナイジェルは自分がカール将軍のような腰抜けではないと自負している。必ずやリンデルワーグの領土を奪い、永久の名誉を手に入れる。
手始めにまずはレジランカ騎士団団長の首を手に入れると決めていた。
叩き上げの軍人であるナイジェルにとって、ラルフは筆舌に尽くし難いほどの屈辱を覚える存在である。
(何が王子だ……!!)
王子という立場を利用し武力がものを言う神聖な戦場に、うす汚い宮廷政治を持ち込むような無粋な輩は、完膚なきまでに叩き潰し再起不能にしてやる。
お綺麗な宮廷剣術しか知らぬ王子に戦場の厳しさをとくと教えてやろうと、ナイジェルは不敵な笑みを浮かべた。
「将軍、至急お伝えしたいことがございます」
「何だ?」
「レジランカ騎士団副団長を名乗る者が面会に来ております」
レジランカ騎士団といえば、リンデルワーグが誇る国防の要である。その結束は親兄弟よりも固いと聞く。
……それがどうしたことか。
団長を補佐すべき立場の副団長が敵方の将軍に密かに面会を求めている。
王子を団長に据えた歪みがここにきて取り返しのつかない事態を招いている。
これはその証ではないのか?
「わかった。すぐに参ろう」
ナイジェルはニヤリと下卑た笑いをもらした。