ニキが砦に到着したのはラルフ達から遅れて2日後の夕方のことであった。
作戦室にはラルフ、ハモン、キール、そしてサザールまで本隊の指揮をとったニキと、指揮官級の4人が揃った。
「ニキ、来るのが遅いぞ」
遅いと文句を言われたニキは心外とばかりにキールに嫌味を返した。
「これでも精一杯急ぎましたわ。時間がかかったと文句をおっしゃるなら、どこぞの副団長が一切合切放棄して一目散に走っていったせいです」
「砦の陥落までに間に合わない方がまずいだろう?」
キールはしれっとした顔で自身の行為を正当化した。実際、砦が強襲を受けていたとしたら、キールの素早い行動がなければ敵の手に落ちていた事だろう。
「グレイは?」
ハモンはグレイの所在をラルフに尋ねた。
「グレイは王都におります。我々がいない間の留守を任せております。今頃詰所の鼠退治でもしている事でしょう」
「はあ、そうですか。あやつがいれば大変心強かったのですが……」
グレイとハモンは同じ北方騎士団で研鑽を積んだ仲である。グレイの実力を知っているだけにこの場にいない事が一層悔やまれた。
「ハモン殿はニキ殿と会うのは初めてですな。副団長の席が空いていないので部隊長を任じておりますが、ニキ殿の実力はグレイと遜色ありません。安心されよ」
「ワレンズ家の"血みどろ姫"の名前は伊達じゃないもんな」
「お望みならば今すぐ貴方の首を刎ねて私が副団長になってもよろしくてよ?」
「……それくらいにしておけ」
流石のラルフも緊張感がなさすぎる二人を一喝して黙らせたのであった。
戦闘時には示し合わせたように息を合わせてくる二人だけに、平時の口喧嘩がうるさいのが少々惜しい。
「戦況はどうなっている?」
ラルフはハモンに尋ねた。
「サザール平原の北西に陣営を構えてから以後、動きはありません」
「あらまあ、それは悠長なことですね。レジランカ騎士団の本隊がやってきて無事に帰れると思っているのかしら?」
リンデルワーグの兵力が北方騎士団、レジランカ騎士団合わせて5000足らずなのに対し、マガンダの兵はゆうに2万を超えている。
しかし、マガンダ軍をよく見れば正規兵ではなく、鎧を着ているだけのただの農民が多く混じっている。
農閑期というわけでもないのに、徴兵で駆り出されたのだろう。
数はマガンダが上回っているものの、兵の練度で言えばリンデルワーグも負けていない。
マガンダ軍の中に姿が見えないが、どこかにクルスの兵も隠れているに違いない。戦況はかなり厳しいものがある。
勝敗がどちらに転ぶかは、兵を率いる大将がものを言う。