離宮へと向かう道中、エミリアは終始上機嫌であった。
興味津々といった様子でマリナラに話しかけ、積極的に交流を持とうとしている姿はなんとも微笑ましい。
相手をするマリナラも面倒がらずに丁寧に質問に答えている。
(女性というものはなぜこうもおしゃべりなのだろうか……)
ラルフは窓の外の景色を眺めながら、なんとも言えない疎外感を感じていた。
よくよく考えてみれば、4人兄弟の末娘、紅一点として生まれたのもあり、エミリアは姉という存在に憧れがあったのかもしれない。
エルバートにも正妃がおり義姉と呼べる存在がいるにはいるが、王太子妃テディは王城には滅多に立ち入らないエミリアとは疎遠である。
マリナラはエミリアと年齢も近いし、聡明な上に話術も巧みで飽きさせない。エミリアはたちまちマリナラの虜になった。
アサイルから借りた馬車はあらゆる関所を素通りし、最速で離宮を目指した。時折休憩を取りながら馬車は街道をひた走る。
太陽が空の天辺を超え、次第に西に傾き出した頃、ようやく離宮のあるガーラ山の端を視界に捉えた。
先代の国王でありラルフの祖父が建造したガーラの離宮は長らく人の手入れがされていなかった曰く付きの建物である。
ガーラの離宮は祖父から寵愛をうけたひとりの歌姫のために建設されたという。
祖父は歌姫を離宮には住まわせ、ひっそりと逢瀬を重ねた。
しかし、幸せな生活はそう長くは続かなかった。同業者から妬まれた彼女は夜道で何者かに切りつけられたのだ。幸いなことに一命はとりとめたものの、自由に歌うことが叶わなくなった身体に絶望した歌姫は自ら毒を飲みこの離宮で非業の死を遂げた。
以来、ラルフ達親子がやってくるまでガーラの離宮は長らく閉鎖されていたのである。
ラルフ達一行がガーラの離宮に着いたのは日が暮れかかった黄昏時のことであった。
「ラルフ!!エミリア!!」
先触れ代わりに並走していたロンデを先に向かわせておいたおかげか、アリスは馬車が到着すると同時に離宮から飛び出してきた。
「顔をよく見せてちょうだい!!」
そして、久方振りに帰宅した息子を思いきり抱きしめたのである。