「サージェス兄上はまだ見つかりませんか?」

「見つかるわけないよ。兄上も最早探す気も失せてるでしょ」

次兄のサージェスは国外に留学していることになっているが、それは真っ赤な嘘である。

本当はある日突然「竜を探しに行ってくる」と書き置きを残して姿を消したのだ。

書き置きの発見からまもなくリンデルワーグ中をくまなく探し回ったが未だに発見には至っていない。

元々、空想癖があり突飛な行動が多かったが王城からの出奔はその最たるものであった。

「父上も倒れ、母上はあのような御方で、同じ胎から生まれた弟達も不甲斐ない。僕が言うのもあれだけど、エルバート兄上の心中をお察しするよ」

アサイルはハンカチで顔の汗を拭いながら、兄エルバートの苦労を労った。

「それで?優等生のラルフが何でエルバート兄上に呼び出されたの?」

王城の外にほとんど出ることのないアサイルはラルフとマリナラが市中でどんな風に噂されているか知る由もない。

「……結婚の許しを頂きに参りました」

ラルフがそう答えるとアサイルは椅子から転げ落ち、口をあんぐりと開けたままわなわなと震え出した。

「け、結婚!?正気かい!?結局、どうなったの!?」

ラルフはもったいぶるようにコホンと小さく咳払いをした。

「……許しを頂きました」

「うわあ!!よくあの兄上が許したね。自由恋愛なんて王族には滅多にできないよ!!」

アサイルは両腕をあげ万歳したかと思えば、これみよがしにラルフの脇腹を肘で打ち始めた。身内に大仰に喜ばれると気恥ずかしいのはなぜだろうか。

「まあ、クルスとマガンダの小競り合いを首尾よく収めることが条件なのですが……」

「うげえ……。あの兄上があっさり認めるなんてどうりでおかしいと思った。結婚を許すくらいなんだから結構大変なやつなんだろ、それ?」

「いつも通りですよ。運が悪ければ死に、良ければ帰って来られます」

「ラルフには貧乏くじを引かされる天命でもあるのかな?」

アサイルがあまりにも真剣に考えだすものだから、ラルフははははと大口を開けて豪快に笑った。

「どちらかと言えばエルバート兄上の方が大層な天命の元におられるのでは?」

「そうか……。僕もエルバート兄上に胃薬でも作って差し上げようかな……」

気の置けないアサイルとの歓談はラルフにとって一時の癒しになった。話は弾みに弾み日暮れまでもつれ込んだ。

王城から帰る際、ラルフはすっかり待ちくたびれたロンデからの怒りを買い、機嫌を直してもらうのに相当な時間を食ってしまったのである。