「相変わらずですね、兄上」

ラルフは鬱蒼と茂る薬草畑を見て、はーっと感嘆のため息をついた。

規則正しく並ぶ畝には雑草の類は生えておらず、アサイルのたゆまぬ努力と丹精こめた仕事が見てとれた。

「これでもいくらか縮小したんだ。エルバート兄上に"これ以上雑草畑を広げたら燃やす"って言われてさ……」

アサイルの口からあははと乾いた笑いがもれる。ここに至るまでにエルバートに何度も脅されたのだろう。

アサイルは昔から身体が非常に弱く、少し身体を動かす度に熱を出しては何日も寝込むということを繰り返してきた。

成長すると身体は多少丈夫になったものの、薬は未だに必要不可欠である。

それが高じて今では王城の一部で自ら薬草を栽培し、己の身体を使って効能を試しているのである。

アサイル曰く、薬学博士と医者に虚弱体質の責任を押し付けるくらいなら自分で管理するとのことである。言わずもがな王族の中でも変わり者である。

ラルフとアサイルは薬草畑を通り過ぎ、天幕で覆われた一角に向かった。

この天幕はアサイルが畑仕事の合間に休憩する際に使っているものである。ラルフは慣れた様子で入り口の布の切れ目をかき上げ天幕の中に入った。

生育中の苗や木箱が乱雑に置かれているが、不思議と落ち着く空間である。アサイルの畑仕事をこっそり手伝ったこともあるラルフには、謁見室よりも身近な場所である。

アサイルは天幕の中に転がっていた小さな麻袋の一つをラルフに投げ渡した。

「エミリアに渡してくれる?ライルブラから取り寄せた種なんだけど土が合わないのか、ここでは育たないんだ。もし離宮で育ったら買い取るからさ」

「かしこまりました」

ラルフは麻袋を大事に懐にしまった。離宮で自給自足の生活を送っているエミリアとアサイルは園芸仲間同士、交流がある。

アサイルは椅子を2つ引き寄せるとラルフに座るように促した。

「父上のご様子は如何ですか?」

「……相当悪いよ。元々良くなかったけど、とりわけ年明けから寝込む時間の方が多くなってきた。心臓の働きを助ける薬は作れても、心臓を治す薬はないからね。僕もまさか自分用に煎じた薬を父上に与えることになる日がくるとは思ってなかったよ」

王城を出たラルフには父親である国王の様子が知らされることはない。王城内でも国王の詳しい容態を知るのは後宮内にいる近親者と寵臣に限られている。