「お気遣い頂きありがとうございます」
マリナラはとびきりの笑顔で礼を言ったかと思えば、ラルフの左腕に己の腕を巻き付けしなだれかかった。
「ただ……ラルフ様とて男性ですもの。隣の部屋に若い女がいればおのずとそういう願望が芽生えるのも当然ですわ」
雲行きが次第に怪しくなっていくのを感じたのか、ラルフはぎょっとしながらマリナラを見つめた。
先日ベッドで服を剥ぎ取ろうとした時も思ったが、女性に対するラルフの反応はいささか正直過ぎる。
ちょっと胸を見せるだけで照れたように頬を染め、オロオロと慌てる姿はマリナラの悪戯心をくすぐるばかりである。
「ふふ。私がお相手しても構いませんのよ……?ただし、お代はきっちり頂戴致しますが」
「……やはりな」
誘惑の意味を予想していたのかラルフはげんなりしたように呟いた。
「当たり前です。1億ダールはあくまでも妻役としての役割を担う対価です。男女の関係になるなら別料金を頂きますわ」
「ちなみにいくらだ?」
「そうですね。1千万ダールでいかがでしょうか?」
「1千万ダール!?」
「はい。キスは200万ダールから承ります」
「生憎、私は私を安売り致しません。それが私の誇りですの」
マリナラの人生において契約と金は切っても切り離せぬものである。
何でも金で切り売りするやり方を理解しがたいと非難する者もいるが、そんなのはただの綺麗事である。
結婚を盾に人生を売り払うのと何が違うというのだ?
他人が拵えた借金の形にされ、勝手に嫁に出されるなど言語道断である。
自分の価値を自分でつけ自分で相手に売る。それが契約書を糧にして生きると決めたマリナラの矜持である。
「わかった。心に留めておく。ただし今夜は遠慮しておく」
「あら残念」
交渉が決裂するとマリナラはスッと身体を離した。これ以上乙女の柔肌を無償で堪能させる趣味はない。
金満な契約者殿から搾り取れるだけ搾り取るためには多少の小細工も必要である。