レジランカには騎士団とは別に警ら隊が存在する。
騎士団がリンデルワーグ王国が保持する軍隊であるのに対し、警ら隊は首都レジランカの治安を守る警ら業務に準じている。
レジランカで何かしらの犯罪が起こった場合、まずは警ら隊に連絡することになっている。
同じレジランカに属する機関とはいえ、騎士団と警ら隊は別管轄だ。しかし、そこは同じレジランカに暮らす者同士である。不審者情報はある程度共有するし、要請があれば警ら業務を手伝うこともある。そうなれば自然と顔見知りもできるというものだ。
「え……、あ、あの……団長殿?」
ジャンの要請に応じてやって来た警ら隊の者達が困り切っていることに、ラルフはあえて気がつかない振りをした。
なんなら自分が何者か説明する手間が省けて良かったとすら思っていた。
「この狼藉者達を引き渡したい」
「は、はははは、はい!!か、畏まりました!!」
警ら隊の隊員達はレジランカ騎士団団長にして王族の一員たるラルフに最敬礼をした。
一網打尽にされた哀れな男達は、動けないように後ろ手にして縄でくくられた状態でジャンの隣に立たされていた。その顔は皆一様に憔悴していた。
「ああ……ラルフ様……」
男達が連行されていく最中、これまでラルフの隣で無言を守り続けていたマリナラがふらふらと寄りかかってきた。
「……どうした?」
「私……今更ながら恐ろしくなりましたの。もしラルフ様がいらっしゃらなかったら、今頃どうなっていたことか……」
……何を今更。
ラルフは言い返したくなるのを必死でこらえた。首尾通り事が運んで満面の笑みを浮かべていたマリナラが怖気づくはずがない。
そう、これは演技だ。警ら隊に我々の恋仲を見せつけるための演技である。
古典的な手口ではあるが、警ら隊の面々の興味を引くことには成功した。好奇心の色を隠せない彼らはチラチラとラルフとマリナラのやり取りを盗み見ていた。
「ラルフ様……お耳を……」
そう言われて身をかがめるとマリナラがコソコソと耳打ちをしてくる。驚きの内容に、ラルフはすっかりげんなりした気持ちになった。
しかし、気を持ち直し愛する恋人のお願いに意気揚々と応えるのだった。
「ああ、そうだな。あんな事があった中でひとりで寝るのは心細かろう。今宵は一緒に我が屋敷に参ろう」
「嬉しいっ!!今夜はずっと一緒にいられるのですね!!」
「今夜と言わずこれからもずっと一緒だ」
とんだ茶番を見せつけられた警ら隊の面々と連行途中の狼藉者達は口をポカーンと開けていた。
……真面目に業務をこなす警ら隊には悪いが、今後一緒に仕事をしたくない。出来れば今夜の記憶を抹消して欲しいとラルフは心から願った。
「し、失礼致します!!」
警ら隊は見てはいけないものを見てしまったとばかりに、頬を染めながら素早く立ち去っていった。
「……演技が下手くそですね」
「あらかじめ言っておいてくれ!!」
急に歯の浮くような台詞を言うように強要された挙句に、下手くそとなじられラルフにとっては踏んだり蹴ったりな夜になった。
しかし、今夜はこれだけでは終わらなかった。