留守と聞いてやって来たはずなのに蓋を開けてみれば、貴族と思しき男女がくんずほぐれつしている場面に遭遇した彼らが激昂するのも無理はない。

「この野郎!!今すぐ金目の物を寄越しやがれ!!」

先頭を仕切っていた小太りの男が手入れが一切されてなさそうな剣を振りかぶりながら突進してくる。

こんなあられもない姿を他人に見られて……団服に施された金色の鷹が泣いているような気がした。

「マリナラ殿、下がっていてくれ」

ラルフはベッド脇に避難させていた剣を持つと鞘をつけたまま、小太りの男の鳩尾に素早く突きを入れた。

「うぐあっ!!」

男は呻きながらその場に崩れ落ちた。手加減をしたつもりなので命に別状はないはずである。

「このクソ貴族!!」

女とイチャコラしてやがったくせにという怨嗟の声が聞こえてきそうだった。

小太りの男に隠れていた薄毛の男と頬に傷のある男が同時に剣を振り回してくる。当初の予想通り、剣の心得はなくずぶの素人である。これではラルフを殺すどころか身体に当てることすらできない。

ラルフは身を捩り薄毛の男の縦一閃をかわすと、そのまま懐に飛び込み剣の刀身を胴に当てた。小太りの男同様、呻きながら床に沈んだ。

可哀想なことに残った一人は完全に戦意を喪失していた。反省するなら逃がしてやりたいところだが……。

「……悪いな。私も彼女には逆らえんのだ」

ラルフはバツが悪そうにそう言うと、ひぃと悲鳴をあげる最後の男にとどめを指したのだった。

「お見事」

下がっているように言われていたマリナラがカーテンの間から拍手をしながら出てきた。

「剣を抜かずに済んで良かった」

「ええ。買い戻したばかりの別宅ですもの。血で汚されては大変ですわ」

全員を気絶させ戦闘不能にするまで、ほんの数分のことだった。

多勢に無勢ではあるがラルフにとってはどこぞの令嬢を引き剥がすより遥かに簡単であったのは言うまでもない。

「ジャン」

「はい、お嬢様」

「この者達を縛り上げなさい。あと、速やかに警ら隊に連絡を」

「畏まりました」

ジャンは返事と共にマリナラの着衣の乱れを綺麗に整え、羽のついた小さな箒で塵と埃をはたくとふんと小さく鼻を鳴らした。

(襲われたのはこちらの方だぞ……!!)

非難されているような気がして、ラルフは心の中で大層憤慨した。