吹き出した炎は周りの木々をことごとく焼き尽くしていく。何もかもを真っ赤に染めあげる業火の中、飛びそうになった意識を既の所で引き戻す。
 大丈夫、大丈夫だ。弱音なんか吐くな。すぐに治る。痛くない、痛くない、痛くない!

「…ふっ」

 私は静かに息を飲んで、痛みを感じる場所全てに意識を集中させる。

「もういい!不知火さん、危ないよ!」
「早く上がってこないと焼け死んじゃう」

 まだ上がれない!まだ赤翼くんを救ってない!
 木材の焼ける匂いが大気を支配する。さっきまでの澄んだ大自然の空気はない。あるのは灰黒く汚れた黒煙と、轟々という炎が立ち上る音のみ。

「…げほっげほっ」

 長くはいられない。でも集中したおかげか動けるようにはなった。折れた骨もくっつき、身体中の傷も消えかけている。

「赤翼くん!」

 彼の名前を呼びながらキョロキョロと辺りを見回す。滑って落ちてきて見失ってしまった。
 目を走らせるも木々と炎が立ち並ぶだけ。炎が視界を奪い、黒煙が感情に焦りを生む。


「しら…ぬいさん」
「っ!」

 燃える炎の音の中、微かに聞こえた。私の名前を呼ぶ呻き声。

「あっ!」

 灯台もと暗しとはまさに、私が引っかかった幹の少し右側。ぐったりと倒れる赤翼くんの姿があった。

「赤翼くん!赤翼くん!」

 必死に呼びかける。

「…げほっ…不知火さ…」

 黒煙に咳き込みながらも反応してくれる。どうやらまだしっかり意識はある。私はすぐに赤翼くんにロープを括りつけて抱きしめるように体を寄せた。

「先生、生駒くん!赤翼くん抱えました!」
「不知火さん、わかった!生駒くん、いくよ!」
「はいっ!」

 私たち2人を支えるロープがピンッと音を立て弦のように張りつめる。大人と男の子の力で引っ張られる。登って戻るには十分な力だった。