指示通り右手にある枝を掴む。

「くっ!!」

 また今度は右足に突き刺すような痛み。今のはかなり痛かった。

「はぁはぁ…痛っ」

 痛みに耐えかねて右ももを見ると、鋭い枝がももの外側を抉るように貫いていた。思わず目を背けたくなるような光景。炎が右ももから吹き出す。

「…うっ」

 吹き出した炎を抑え込むように力を入れた。私の発火機能のコントロールはまだ不完全。それでも多少抑えることは出来る。右ももを痛いほどに、筋肉を締めるように力を込める。

「くっ」

 奥歯をかみ締めて痛みを堪える。きっと赤翼くんはもっと痛い。吹き出した炎は木々に移り、徐々に広がっていく。
 ロープを握る手に汗を滲ませて、少しずつ崖を下る。
 もうすぐそこ。赤翼くんの元へ、そう思った瞬間。

「…あっ!」

 ズルっと足場がなくなる感覚がした。木にかけていた靴底が滑って踏み外した。

「不知火さんっ!」
「危ないっ!」

 十鳥先生と生駒くんの声が聞こえる。同時にぐるりと視界が回った。下を向いていたはずなのに、鳥たちの飛ぶ青い空が見える。

 ガサッ!バキバキッ!

 枝の折れる音、土を擦る音、骨の折れる音。痛々しく凄まじい落下音とともに私はそのまま下まで転落した。

「…かはっ!」

 落ちていく中、私の腹部が鋭い木の幹に叩きつけられる。お腹と肺から空気の漏れるような呻き声。思いっきり鳩尾を打ち付け、意識が飛びそうになった。
 右腕も左足も全ての四肢に痛みを感じる。骨も折れて傷だらけ。血が体を真っ赤に染めあげる。
 痛い!痛い!痛い痛い痛い!

 シュッ!ボウッ!!

 気持ちに呼応するように凄まじい炎が体を包む。抑え込むのは到底不可能なほどの炎の勢い。
 まるで空に浮かぶ太陽のような炎だった。