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「はぁ…はぁ…」

 慣れない動きに息を切らしながら、括り付けられたロープを伝って急斜面を下る。
 赤翼くんが滑落した急斜面は上から覗き込むよりも遥かに急で、思わず怖気付いてしまいそうになる。

「…っ」

 パラパラッと音を立てて足場にしていた部分から小石が転がり落ちた。本当に一歩間違えたら私まで赤翼くんと同じ状況になりかねない。
 額に汗が滲み、それがゆっくりと頬を伝う。なんとも言えない緊張感が私を支配していた。

「不知火さん、右手近くの木が安定してる!」
「っ!これ、ですか?」
「うん、そう!」

 上から十鳥先生が指示をくれる。隣の生駒くんはすぐに引き上げられるように、括りつけたロープをぎゅっと握りしめていた。

「…ふっ」

 ザザっと靴底と土の摺れる音。足と手に持てる全ての力を込め、少しづつ下る。そうして1歩分下に降りた。

「うっ!」

 しかしその刹那、左腕に切りつけられたような痛みを感じる。人の侵入を拒むかのように生えた枝に腕の皮膚を切り裂かれる。

「っ!」

 まずい、そう思った時にはもう私の体は否応なく反応した。不死鳥としてのその血を遺憾なく発揮して。

 ボッ!

 私の左腕が発火する。メラメラと燃え盛る炎。何もかも飲み込んでしまいそうな、その深紅の炎。

「…っ」

 火に対する恐怖、バレてしまう恐怖、大火事になってしまう恐怖。そのどれもがグルグルと心をかきみだす。
 しかし振り払うように私は頭を振った。赤翼くんを救いたい、その一心が恐怖を和らげてくれた。

「…え!?火!?」

 私の中で恐怖を振り払った矢先、様子を見ていた生駒くんが驚いて声を上げる。
 あぁ、ダメだ。バレてしまった。

「不知火さん!左腕から火が──」
「止めないでください!」

 そう続ける十鳥先生の言葉を大きな声で遮る。私の声に少し驚いた様子を見せる2人。

「大丈夫です。気にしないで指示を!」
「指示って言われても」

 理解できない状況に、生駒くんは私を止めようと声を出す。

「わかった。次は右手奥の木の枝に捕まって」
「十鳥先生!?」
「…ありがとうございます」

 先生はなにか察してくれたのか、私の意思を尊重してくれた。