「…え!?20~30分かかる!?」

 そんなパニックの中、十鳥先生の声が山道に響く。

「最短で来てもらってもそのくらい?と、とにかくお願いします!なるべく最短で到着してください!」

 先生はピッと電話を切って神妙な面持ちで私たちに振り返った。

「レスキューは来てくれるけど、20~30分かかるって。それまではセルフレスキュー対応で、と」
「そんな!」
「先生!具体的に有真にどんなことをすれば!?」
「ある程度なら救助活動できる。まずは救助者の容体確認しなきゃいけないんだけど…」
「容体確認…」

 私たち3人は崖の下を見つめる。

「ううっ」

 幹に引っかかったままの赤翼くんがまた1つ呻き声をあげた。

「まずはあそこから赤翼くんを助け出さないと」
「ど、どうやってですか!?」

 私は食い気味に先生に問いつめた。

「救助用のロープは持ってるから、安定した木に括りつけて引き上げられる。だけど…」
「…けど?」
「木々が鋭く生い茂ってるから、降りていく過程で救助に行った人自身が怪我したり滑落したりしかねない。二次、三次的に災害が増えちゃう可能性もある」
「それなら俺行きます!」
「いや、持ち上げる都合上、力のある男の子には上にいて欲しい」

 たしかに崖の下は木々が生い茂っている。乱雑に生えた木々は枝を鋭く伸ばし、まるで人が入ってくるのを拒絶するかのよう。なんの装備もなしで入ったら、間違いなく傷だらけになるだろう。
 もし私が行ったら炎を吹き出してしまう。山火事にだってなりかねない。

「……」

 私はまた、赤翼くんを見つめる。微かな呻き声をあげて苦しそうな姿。
 私のせいだ…。レスキューが来ても助からなかったら、謝れないまま終わる…。私ならなんとかできるかもしれない…でも私には秘密がある。不死鳥の秘密が…。

「…嫌」
「不知火さん?」
「私、嫌です!赤翼くんにたくさん助けられてきたのに、今なにも出来ないのなんて嫌です!」

 口をついて出た言葉だった。
 赤翼くんを助けることと、私の秘密がバレること。そんなの天秤にかけるまでもない。
 いままで隠して生きてきた先祖の人達よりも私は今、赤翼くんのことを助けたい!やらなきゃ一生後悔する。
 木々に切り裂かれて怪我しても、滑落して骨を折っても、私ならすぐ治る。私にしかできないことなら、今全部やりたい。

「私行きます!ロープ、括りつけてください」

 秘密がバレることを覚悟の上で、私は2人にはっきりとそう伝えた。