「うわっ!」

 私を支えていた力が抜けると同時に、赤翼くんが驚嘆の声を上げた。支えてくれていた赤翼くんを見ると、今度は彼の方がバランスを崩して倒れているところだった。

「赤翼くん!!」

 倒れゆく先は道幅狭い山道の崖側。木々が生えているものの少し急な傾斜で切り立っている、そんな崖。

「…うっ」

 咄嗟に上げた私の声も虚しく散る。鈍い音と呻き声を上げて、気が付けば崖の下に滑落していっていた。落ちていく赤翼くんの姿は、さっきとは違い一瞬に感じた。

「あ、赤翼くん!赤翼くん!」

 私はすぐに座り込み、落ちていった崖先を覗きこむ。

「うぅ…」

 赤翼くんは生きていた。生い茂る木々の中で幹に引っかかってぐったりとしている。よく見ると体の一部から出血している。腕も変な方向に曲がってしまっていた。

「せ、先生!生駒くん!」

 どうしたらいいかわからず、喉が痛くなるほど叫んで2人を呼んだ。目の前で人が滑落する光景は筆舌に尽くし難い気持ちで心を支配する。

「ん?」
「不知火さん?どしたの?」

 そんな私の様子に異常を感じたのか慌てて駆け寄ってくる2人。

「あ、赤翼くんが!落ちて!下に!」
「滑落しちゃったの!?」

 パニックでうまく説明できずも、慌てようから察してくれた2人。

「…いた!赤翼くん!」
「有真!おい、有真!」
「うぅ」

 そんな2人に呼びかけられて赤翼くんが辛そうな呻き声で反応した。

「よかった、意識はある!」
「でも先生!有真、怪我してませんか!?」
「見たところね。すぐにレスキューを呼びましょう」

 十鳥先生は素早くスマホを取り出してどこかに電話し始める。

「出血してるし、骨も折れてそう。早いところ手を打たないと…」

 電話をかけながらブツブツとつぶやく先生。落ち着いているように見えて、そんな十鳥先生の顔は真っ青だった。

「赤翼くん!赤翼くん!」

 私のせいだ。私がさっき転倒したからだ。勝手に焦って、勝手に慌てて。私の頭の中もパニックになっていた。