「いやぁ、みんな珍しいものが見れたね」

 十鳥先生が私たち3人に振り返りながら言う。

「滅多に見れるものじゃないよ?」
「そうですね!俺初めて見ました!」
「ヒュッと素早く飛び込んでいきましたね」

 みんな今見た光景の興奮が覚めやまぬ様子。それは私もそうだった。

「不知火さんは?どう思った?」
「私は…ちょっと残酷だなと思いました」

 私を真っ直ぐと見つめ、十鳥先生が首をかしげる。

「残酷?」
「はい。あの魚、きっと放っておいたら死んじゃうんじゃないかって」
「あー、たしかに。血を流してたよね」
「長くはないだろうね。血の匂いもするし、他の動物たちに狙われちゃうかも」

 生駒くんと赤翼くんも私の言葉に同調する。血の匂い、赤翼くんの知識量はさすがだなと思った。

「うんうん、それで?」
「すごいなって思ったのもあるんですけど、同時になんかこう衝撃と言いますか…」
「ほう!」
「命のやり取りとか、自然の綺麗さとか、外に出て触れて、実際に見てみないとわからないことってあるんだなと思いました」

 私の言葉に先生を含めた3人とも関心するような表情をした。

「不知火さん、いつも教室ではつまらなさそうに無表情だったから新鮮!」
「い、生駒くん。それは普通に悪口」
「あはは!ごめんごめん」
「先生は不知火さんの感性、素敵だと思うな」
「あ、ありがとうございます」

 2人に褒められながら、ちらりと赤翼くんを見る。赤翼くんも少し嬉しそうにこちらを見て頬笑みを浮かべてくれていた。ここにいるのも元の元を正せば赤翼くんのおかげだと思うと、感謝の気持ちが湧いてくる。
 本当に来てよかったなと思った。

「不知火さんも言ってくれたけど、ちょっと残酷なんだよ、自然で生きるって。でもそんな厳しい自然界でも生きることそのものを否定はされない。どんな生き物にも平等に与えられたもの、それが生きるための命だからね」

 パンっと手を合わせながら、十鳥先生がそう言った。命は生きるために与えられた平等なもの。なんだか新しい感覚が芽生える感じがした。

 ピィィィィィッ

 山の奥の方からピィちゃんの鳴き声にも似た鳥の囀りが木霊する。澄んだ空気と暑い日差し、綺麗な木漏れ日に包まれて、私たちはまた山道を進んだ。