「ピー!キキキー!」

 しばらくカワセミの様子を確認していると、突然壊れたブレーキのような音が鳴る。

「カワセミってこんな風に鳴くんだ」
「僕も初めて聞いた」
「俺も」

 私の声に反応するように2人も口を揃えてそう言う。
 例えるなら、自転車のブレーキを薄くかけた時の音をずっとずっと高くしたような感じ。
 ともすれば不快に聞こえるような高い声の囀りだが、その声はどこかピィちゃんと似たものを感じる。私にとっては可愛らしい綺麗な声だった。

「ピッ!キキッ!」

 双眼鏡に映った鳴くカワセミはムーンウォークでスライドするかのように枝を移動していく。
 そうして枝の先まで到着した。なにやら流れる小川の中をじっと見つめている。

「……」

 しばらく沈黙が流れる。川のせせらぎも夏風で擦れる葉の音も、全てが静まり返っているように思えた。私たちは固唾を飲んで魅入った。

「キッ!」

 突如、カワセミが1つ鳴き、深く体を屈ませた。

「あっ!」
「おぉ…」

 次の瞬間、ヒュッと勢いよく川に飛び込んだ。私と赤翼くんは各々の声を上げる。
 それからは本当に一瞬の出来事。
 飛び込む勢いは凄まじく、目で捉えられた時間はほんの少しだけ。舞った水しぶきに夏の日が当たってキラキラと反射する。
 かと思えば、1尾の魚を咥えたカワセミが星のような水しぶきの中を悠々と飛び立った。その嘴に咥えられたままビチビチともがく小魚。
 魚はもがき続け、やがてその嘴から逃れた。上空から落ちる魚は川の中へ落ちる。微かな赤い血が水に溶けるのが見えた。カワセミはまた枝の上へ戻っていく。

「……」

 その刹那の景色は私にとって衝撃だった。
 カワセミが魚を主食とすることは知っていた。川に飛び込んで魚を捕ることも知っていた。
 けれどもそれは知っていたただけ。
 目の前で繰り広げられた自然の行為。喰らい逃れる命のやり取り。知っていたただけでは経験できない、胸に残る何かがあった。