意を決して中に入るも教室はいつも通り。生徒たちの喧騒が楽しそうに充ちる。私の心持ちが変わったことで、いつも通りの教室の景色は少し違って見えた。
「……」
赤翼くんの席に目を向けるも、彼はまだいなかった。今日も遅刻してるのかもしれない。それを見て少し安心した自分もいる。そんな自分がヘタレで少し嫌になった。
猶予ができたと捉えよう。彼が来るまで落ち着いて伝えることをまとめるんだ。
自分の席につき、教科書を入れ替える。
「え?」
机の中に手を入れると違和感を感じた。それは湿った何かを触れた感覚だった。
「なに?」
嫌な予感がしてその湿った何かを取り出す。
「ぁ…嘘っ」
湿った何かは教科書だった。ビショビショに濡れた数学の教科書。明日も使うからと昨日から置いていったままにしていたものだ。
一瞬、なぜこうなってるのか理解できなかった。
「ぷふっ…」
「まじウケる」
混乱する私に耳に、クスクスと嘲笑が聞こえた。
「っ!」
声の方へキッと鋭く目線を向ける。目線の先にいたのは昨日のあの子たちだった。
今までこんなことなかったのに、今日になって突然いたずら。わかりやすいことこの上ない。
「乾かさないと」
私は教科書に目線を戻してボソリと呟く。怒りをぶつけたら彼女たちと同じだ。今日の授業で使うわけだし、さっさと元の状態に戻す。私がやるべきことはそれだけだった。
そう思って教科書を持って立ち上がった矢先。
「あっ」
「あ」
私の席を通り過ぎようとした赤翼くんと目が合う。どうやらたった今登校してきたようだ。
「……」
「……」
しばらく黙って目線を交わす。私はなんとなく教科書を後ろ手に隠した。
「今なに隠したの?」
「別に」
赤翼くんの質問をなぜかぶっきらぼうに返してしまう。言葉と気持ちが乖離する。違う、こんな態度取りたいんじゃないのに。
「私行くから」
「あ…」
そのままろくに言葉も交わせず、私は赤翼くんの横を通り過ぎた。
きっと私がこんなイタズラされてるのを赤翼くんにバレるのが嫌だったんだろう。
そそくさと通り過ぎる私を、少し悲しげな目線で彼が見ている。そんな気がした。
「……」
赤翼くんの席に目を向けるも、彼はまだいなかった。今日も遅刻してるのかもしれない。それを見て少し安心した自分もいる。そんな自分がヘタレで少し嫌になった。
猶予ができたと捉えよう。彼が来るまで落ち着いて伝えることをまとめるんだ。
自分の席につき、教科書を入れ替える。
「え?」
机の中に手を入れると違和感を感じた。それは湿った何かを触れた感覚だった。
「なに?」
嫌な予感がしてその湿った何かを取り出す。
「ぁ…嘘っ」
湿った何かは教科書だった。ビショビショに濡れた数学の教科書。明日も使うからと昨日から置いていったままにしていたものだ。
一瞬、なぜこうなってるのか理解できなかった。
「ぷふっ…」
「まじウケる」
混乱する私に耳に、クスクスと嘲笑が聞こえた。
「っ!」
声の方へキッと鋭く目線を向ける。目線の先にいたのは昨日のあの子たちだった。
今までこんなことなかったのに、今日になって突然いたずら。わかりやすいことこの上ない。
「乾かさないと」
私は教科書に目線を戻してボソリと呟く。怒りをぶつけたら彼女たちと同じだ。今日の授業で使うわけだし、さっさと元の状態に戻す。私がやるべきことはそれだけだった。
そう思って教科書を持って立ち上がった矢先。
「あっ」
「あ」
私の席を通り過ぎようとした赤翼くんと目が合う。どうやらたった今登校してきたようだ。
「……」
「……」
しばらく黙って目線を交わす。私はなんとなく教科書を後ろ手に隠した。
「今なに隠したの?」
「別に」
赤翼くんの質問をなぜかぶっきらぼうに返してしまう。言葉と気持ちが乖離する。違う、こんな態度取りたいんじゃないのに。
「私行くから」
「あ…」
そのままろくに言葉も交わせず、私は赤翼くんの横を通り過ぎた。
きっと私がこんなイタズラされてるのを赤翼くんにバレるのが嫌だったんだろう。
そそくさと通り過ぎる私を、少し悲しげな目線で彼が見ている。そんな気がした。