〜 Side 雛子 〜

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 翌日、朝の昇降口。簀子の上で上履きに履き替える。
 昨日は思わず部室を飛び出してしまった。それがずっと私の胸につっかえている。
 たしかに私は酷いことを言った。それを彼に聞かれると思わなかった。

『てか退部したら?』

 あの子たちが言ったこの言葉だけは聞くわけにいかなかった。穏便に済ませようと思えばいくらでも済ませることは出来ただろう。
 でも彼女たちが望んでるのは生駒くんと関わらないこと。そのために部活を辞めさせられたら、私の好きな空間はなくなってしまう。全てはピィちゃんと私の青春を守るため。いい気持ちは当然しなかったが、頭に血が上ってそれしか思いつかなかった。
 ボーッと考えながら渡る朝の廊下で、夏の暑さが肌を焼くように刺激してくる。

「はぁ…」

 思わずため息が出た。昨日から何度目だろう。
 赤翼くんに私の言動を否定されて悲しかった。赤翼くんにあの姿を見られたことも、それを理解されなかったことも、私に不死鳥の血が入ってると言われたことも。なにもかもが悲しかった。

「はぁぁ」

 気がつけば教室の扉の前。またしても大きくため息が出る。
 昨日悪い態度だったし、赤翼くんと会うのが気まずい。赤翼くんは優しいから心配してくれて声かけてくれたんだ。それがわかるからこそ昨日の子供じみた私の態度が恥ずかしい。
 でも長いこと人を避け続けてきた私には友達と仲直りの仕方わからなかった。

「よし…」

 考えてもきっと何も解決はしない。まずは謝ろう。いろいろ考えるのはそれからだ。だって赤翼くんはこんな私を気にかけてくれた優しい友達なんだから。
 気持ちを整理して、ガララッと教室の引き戸に手をかける。教室のクーラーの涼しさがふわりと私の体を包み込んだ。