「…なんで?」

 不知火さんは静かに反応する。夏なのに少しだけ空気が冷たくなった。

「僕は不知火さんにはいろんな人と仲良くなって欲しくて…」
「私には必要ないけど」
「そうかもだけどさ」

 彼女の裏事情を考えたら、仲良くなる人が増えれば増えるほどバレる危険性が高まる。それに億劫になる気持ちはわかる。

「ただそれでもあそこまで言う必要はなかったんじゃないかなって思うんだ」
「赤翼くんは全部聞いてなかったんじゃないの?なんでそんなこと言えるの?」
「そ、それは…」

 僕はただ不知火さんに人を遠ざけるようなことはしてほしくない、不知火さんにひどい言葉を使ってほしくない。もうただのおせっかいだ。僕の中で正しい正しくないは二の次になっていた。

「と、とにかく仲良くしようよ」
「嫌だ」
「仲良くしなくてもいいけど、酷いことは──」
「だってあの子たちは!」

 少し語気を強めて、不知火さんがなにか言おうとする。目を見開いて、珍しく大きな声。僕は思わずたじろいだ。
 
「…なんでもない。とにかく、私はあの発言を後悔してない」

 驚く僕を見てすぐに口を噤んだ。しかし考えは変わらない。頑固だなと思った。

「僕は不知火さんに自分のこと嫌いになって欲しくないんだ。傷つける発言ばっかりしてると、きっと自分のこと嫌いになっちゃうかって思って…」

 一族の事情がバレないようにするため、人を敬遠する。優しい不知火さんからしたら苦しいことなんじゃないだろうか。憶測だけど、この数週間彼女と関わってきたから何となく肌で感じていた。彼女は僕たちを傷つけようとして敬遠していたんじゃない。

「…っ」

 僕の憶測を裏付けるように彼女は驚いた表情を見せる。でもその表情の中にほんの少し悲しさも混じっていた。

「…私だって好きでそんなこと言ってるわけじゃない」
「でも──」
「全部知らないくせに勝手なこと言わないで」

 驚き悲しい表情は消えて、代わりに怒ったような表情を覗かせた。