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 その日の放課後。

「じゃあ、俺買い出しに行ってくるわ」
「うん、翔。よろしくね」
「生駒くん、よろしく」
「ピッピィ!」

 いつも通り部室に3人集まった後、ピィちゃんのご飯用の生肉が足りなかったので翌日当番の翔が買いに行くことになった。

「ピィちゃん、翼大丈夫?」
「ピュィ」

 優しく翼に触る不知火さん。微笑みを浮かべる不知火さんにピィちゃんもどこか安心している様子だ。
 その姿はいつも通り。今朝に見たきつい発言を感じることはない。
 しばらく不知火さんと過ごしていたから忘れていたのだが、彼女は普段他の人を寄せ付けない言動をする。部活で僕らと話す時とは違う一面。もちろん、彼女の事情を知っているからその理由もわかる。


「……」

 しかし、あんなに邪険に扱う必要は無いのでは?と純粋に思った。
 彼女たちの会話を全て聴いたわけではないので、なぜあんなにも激しくきつい発言をしたのかわからない。
 ただ僕の知る限り、不知火さんは本当は心優しい人だ。だからこそ、少し不思議だった。

「あの、不知火さん」
「ん?どうしたの?」

 僕が声をかけるとくるりと振り返る。本当にいつも通りだ。
 不知火さんが自分という人間を嫌いにならないように。彼女のお母さんから言われたことを思い出す。

「あのさ、今朝のことなんだけど」
「今朝見てたよね」
「全部は見てないけど…」

 通り過ぎる時に目が合っていたので、やはり気がついてはいたようだ。彼女は少しバツが悪そうな反応を見せる。

「不知火さんの言葉が聞こえたからちょっと気になって」
「聞かれちゃったんだ。あれは本心だよ」

 何を聞いたのかは問わず、肯定する。僕の胸にチクッとした痛みが走った。優しいはずの不知火さんの口から暴言が出た、それがショックだったのかもしれない。
 だから不知火さんの立場にまったく立たずに、あまり深く考えずに…

「あんまり人を遠ざける発言はしない方がいいんじゃないかな?」

 僕は無責任に頭に浮かんだ言葉を口に出してしまった。