………


「あぁっ!」
「えっ、切れたの!?」

 放送が途中で打ち切られる。

「こら、君たち!何してんの!」
「あ、いや、えっと!」

 黒縁の眼鏡をかけた放送部の部長らしき女の人が放送室の防音の中で僕らに怒鳴った。不知火さんが手をブンブン振って必死に弁明しようとしている。その目はグルグルと回ってしまっていた。
 最近知ったが不知火さんは意外と簡単にテンパる。

「君たち、1年生?」

 すると今度は僕たちが来るまで声を当てていた男の人に声をかけられる。落ち着きのある心地いい声だ。その声質は放送担当に抜擢されるだけある。

「はい、そうです」
「無理矢理なことしなくても言ってくれれば対応したのに」
「こんなことしといてそれは甘いよ!」
「まぁまぁいいじゃん、部長」

 黒縁眼鏡の女の人は宥められてまた1つ声を荒らげる。

「私はこいつみたいに甘くないよ!捕まえて突き出して晒し首だ!」
「さ、晒し首!?」
「ひぇっ!」

 なんて物騒な!僕らはどこに晒されるんだ。
 はははっと男子生徒がまたいい声で笑う。笑い事じゃないんですけど。

「観念しなさい…!」

 というか部長、ジリジリ近づいてない!?逃げなきゃヤバい…晒し首はごめんだ!

「わわわ…」

 踵を返そうと不知火さんに目を向けると、テンパってあわあわしてしまっていた。

「不知火さん!」

 この調子じゃ逃げられなさそうだ。そう思って、僕は不知火さんの手を取る。パッと掴んだ手のひら。白く綺麗なその手のひらは、想像以上に小さくてか細かった。

「…ぁ」
「放送部の皆さん!失礼しました!」

 僕の手のひらに彼女の熱が伝播する。その熱を合図に、脱兎の如く駆け出して放送室から出た。

「あっ!待ちなさい!」

 廊下に出るとすぐに部長が追いかけてくる。

「不知火さん、走って!」
「わっ…わわっ!」

 彼女の手を掴んだまま、夏の日差しが満ちる廊下を走る。風のように駆け抜け、縫うように生徒たちの間を潜り抜ける。

「…あっ」

 なんだかこれ、青春っぽいかも…。
 遠巻きに見られる僕にとって眩しい青春なんて夢のまた夢だと思ってた。繋がれた手から感じる熱、それは僕の夢見た青春に繋がってる気がする。

「……」

 ちらりと不知火さんを見る。慣れなさそうに必死に走ってる彼女。その表情はどこか楽しそうにも見える。

「待てー!」

 追われているというのに少しワクワクした。