「貴方はただの青春の舞台の1人。ちょっとかっこいいクラスメイトそれ以上でもそれ以下でもない」

 好きでもなんでもなかった。しかし、ここまで本音をぶつけられると衝撃で何も言えない。

「じゃあなんであんな酷いことを!」
「……」

 喰ってかかる俺に、彼女が少し悲しい表情を見せる。なんと酷い発言だと怒りが湧いていたが、その表情と言葉でやっと気がついた。
 俺も同じだった。心のどこかでは『女の子と話せる自分』のことが好きだったんだ。有真のように打ち込めることがない、不知火さんのように関係を拒絶する理由がない、俺はきっと月並みな青春を謳歌するそんな自分に酔っていた。だから有真の噂を否定しなかったし、この子たちと過ごす日々も手放さなかった。
 それは彼女たちも同じだった。何もない人は輝かしい青春を追わざるを得ない。思い描いた青春は時に、夢を魅せて狂わせる。

「…ごめん」
「なにに謝ってんの?そんなんだからこうなるんじゃね?いや、元凶の私が言うのも変だけど。…こっちだってさ、青春したいんだよ。それが邪魔されるなら、なにしてでも手に入れたかったの。でもさすがにやりすぎたし、くだらないなって思ってたよ」

 彼女が初めて人らしい表情を見せる。言い淀むその姿は張り付いた笑顔よりずっと素直に見えた。

「いいよ、もう。嫌がらせとかやめる」
「え?」
「当たり前でしょ?罪悪感ないわけじゃないし、もうこれ以上嫌がらせ続けても生駒くん私たちと絡んでくれないし」

 彼女は冷徹な表情のまま、踵を返して背を向けた。

「ただ最後に、気づかせてくれてありがとね。生駒くんがはっきり言ってくれなかったら、くだらないイジメを続ける灰色の青春だったかもしんない」

 そのまま去っていく。悲しいともスッキリしたとも捉えられるその背中を俺はじっと見つめた。
 青春ってなんだろう。
 羽折さんたちの行動は酷いものだが、青春に対する想いは誰にも否定できない。だからこそ有真のように嫌な噂をされても生き物のロマンを求める、まっすぐやりたいことを貫けるのはかっこいいことなんだ。