風が彼女に纏わりついた真紅の炎を剥がしていく。剥がれた炎が空を舞い、風に乗った細かな紙に移って燃やし尽くす。

「え?」

 僕は掠れた声で喉を鳴らした。舞い剥がれた炎の先、不知火さんの姿が顕になる。
 その姿はあまりにも、僕の想像を超えていた。

「あ、あぁ…」

 彼女の色白で美しいはずの腕や首筋、顔などに橙色や紅色が入り混ざった体毛が生える。まるで鳥に生えている羽毛のよう。彼女の手とその指先、中指から小指に位置する部位が炎に包まれながら腕と同じ長さまで伸びる。パチパチと焔を散らしながら、赤い炎が体を作り変えるように人差し指と親指を縮小させ、代わりに鋭い鉤爪のような形状を生み出す。スカートからスラリと伸びる長い足には、羽毛と鱗状の硬い外皮が炎と共に現れ始める。それは鳥に生える脚鱗(きゃくりん)と相違ない。
 纏う炎は不知火さんのあらゆる部位へ順繰りに鳥へと変えていく。変わりゆく姿はまるで、鳥の姿をした伝説上の生き物、ハーピィそのものだった。

「嘘、なんで?」

 僕はただ呆然とその光景を見ることしか出来なかった。

「あ…アカ…ばね……く」

 不知火さんがたどたどしくそんな僕の名を呼ぶ。普段彼女から聞ける綺麗な声ではなく、潰れたような上手く出ないような、そんな声。炎は彼女の声帯すら奪っていく。
 僕の名前を呼んだその直後、まるでその声を消しさるように、無慈悲に彼女の首元に大きな炎が灯った。

「あ…アァ!ピィ、キュウっ」
「不知火さん!」

 ピィちゃんとそっくりな声が彼女の喉から鳴る。あまりにも異常過ぎる状況に絶望や動揺などで自分の感情が定まらない。

「あぁ…不知火さん!不知火さん!!」

 僕は壊れたラジオのように彼女の名前を連呼する。炎はよりいっそう凄みを増ひ、容赦なく彼女の人である部分を燃やす。
 なにが起きてるんだ。戻れ!炎よ、消えてくれ!
 目の前に広がる轟々とした炎によって、止まることなく作り変えられていく不知火さん。力尽きるように彼女が床にへたり込む。
 彼女は人間から鳥へと移り変わろうとしていた。