「うわぁ!?」
突如目の前に現れた炎に、思わず僕の口から驚きの声が漏れる。パッと頭に思い浮かんだのは、どうして?という疑問だった。癒しの炎、なぜそれが無傷の彼女に今?
「不知火さん!」
茜満ちる部室とそれに負けない色を放つ焔。炎光と夕陽が溶け込んで、眩いほどに煌々と。部室が暖色に光る。窓から強めの夏風が吹き込み、炎が揺らめきながら大きくなる。部室に吹き荒ぶ風に乗って、飼育部時代のファイルや紙が火中に舞った。
「ううっ!っはぁ…」
不知火さんが苦しそうに呻いた。炎はそんな呻きを絞り出すかのように強まり、彼女の健康な肉体を燃やしていく。いつもとは違う、外傷を塞ぐ炎ではなかった。
「不知火さん!不知火さん!」
苦しそうに呻くその姿に必死に声をかける。彼女が苦しんでいる時に僕はまた、ただ声をかけることしかできない。なんと無力なのだろうそんな自分が嫌になる。
「っ!」
考えるんだ。彼女の苦しみを拭う方法を。でないと僕はずっと無力なままだ。
水?手当?声掛け?なんでもいい、なんでもいいんだ!
僕はもう彼女に苦しんで欲しくない。肉体的にも精神的にも。だって不知火さんは優しい人だから。命を大切にできる素晴らしい人だから。
そんな彼女が苦しむ世界は絶対間違ってる。
「うっ、くっ!」
「っ!不知火さん!」
「ううっ!!」
想いも虚しく、一際大きく炎の勢いが強まる。不知火さんの呻き声も今までで1番大きなものだった。
僕の体から血の気が引き、絶望に打ちひしがれたその刹那。ブワッと彼女の体から鳥の羽ばたきにも似た風圧を感じた。それと同時に不知火さんに大きな変化が起きる。