「命は平等なんじゃないの!?なんで私たちは止められなかったの!?」
「……」
「私たちの先祖は…生き残るために人間になったのに。こんなことするためじゃないはずなのに!」

 蹴落とすための排他的な感情とそれを叶える組織的な行動において、人間の右に出る者はいない。だから人間はこの星の生物の頂点に君臨できている。昔からこの星で生き残るため、木々を切り、地を拓き、海を侵した。不死鳥だけじゃない。どんな命でも犠牲にしてきた。これが人という生物の根幹だ。
 そんな繁栄という喰い合いに勝つ人の本能は、同族(人間)同士にさえ向けられる。敵なしとなった今でも、我欲と排斥されないための同調へと姿を変えて残っている。自分がより生きやすくなるために群れて、合わないものを弾く。道中どんな犠牲が存在しようとも…。だから巻き込まれた者だけがいろんなものを失うんだ。

「っ!」

 彼女の言葉に息が詰まる。喉につっかえがあるかのように言葉が出ない。
 もしも僕が、人間と『別の生き物』との混血だとしたら。その『別の生き物』に肩入れしてしまうだろう。そんな『別の生き物』が、人間の都合で死んでしまったとしたら。
 鳥一匹が命を失っても何事もなく回る世界。人以外の命が軽いこの世界は、不知火さんの立場では残酷以外の何者でもない。喰い合いの果て、自然界の掟とは違う。理不尽な残酷さ。

「ねぇ教えてよ!命ってなに?平等ってなに?人間ってなんなの!?」

 鬼気迫る彼女に思わずのけ反り、その気迫が夏の夕空とともに僕を呑み込む。窓から射す夕焼けの淡い光が僕の視界を橙色に塗りつぶしていく。
 僕の目に映る不知火さんはボロボロと大粒の涙を流していた。

「…答えなんてないよね」

 言い淀む僕を見て不知火さんが悲しげに言う。

「困らせてごめん。でも、そういうことだよね」
「そうじゃ、ない」

 人間がいたずらに命を奪うのは間違ってる。人間だけが特別なわけじゃない。僕が月並みにそう返そうとすると、不知火さんは大きく頭を振った。

「私、人間だけど…人間なんて大嫌い」

 震えたような、掠れたような涙声。彼女の茶髪が悲しげに揺れる。橙に光る彼女の涙が頬を伝い、部室の床にポタリと雫を落とした。
 その刹那。

 シュッ…ボウッ…!

 夏の夕空のような淡くも激しい、爆炎のような炎が彼女の体から噴き出した。