18歳の冬。

俺は自宅兼事務所でバタバタと動いていた。

一息つく暇もなく働いている。

これは完全に調子に乗った俺のせいだ。

アシスタントの光流は机の上で書類を整理している。

俺は光流に声をかけた。



「光流、エナジードリンクある?」

「それならヒナタくんに持ってってもらったよ」

「は?なんであいつに?」

「最近ヒーくんはエナジー生活だからね。体を大事にして欲しいし。それにヒナタくんに渡しておけばバイオリンの件も早くやってくれると思ってさ」

「マジかよ…」

「コーラならあるよ」

「飲む」



光流は椅子から立ち上がると冷蔵庫にあるコーラを取ってきてくれた。

それを貰うと手が一気に冷たくなる。

真冬にキンキンに冷やしたコーラを飲むのはおかしいだろうか。

まぁこの部屋は暖房が付いているから関係ないだろう。

俺はコーラを半分ほど一気飲みする。

体が一瞬で冷えて身震いした。



「てかさ光流。お前勉強しなくていいの?」

「どうせ卒業したらヒーくんの正式アシスタントになるんだから別にいいよ」

「でも来年の1月下旬くらいにテストあるだろ」

「適当にやる〜」



現在高校3年生の光流は毎日のように事務所に来ている。

アシスタントにならないかと勧誘したのは俺なのだが、せめて卒業するまでは勉強して欲しい。

それを言っても伝わらないことは学んだので今更俺は言わない。

俺は仕事机の前に座ってパソコンを開くとメールを確認する。



【楽曲依頼の件について】



見出しにそう書かれているメールが来て急いで開くと、新リリースのゲームのテーマ曲を作って欲しいという依頼内容だった。

俺は顔だけ光流に向けてメール内容を言う。



「ヒーくんが死ぬ気でやれば出来ると思うよ。スケジュール的にハードになるけど、ヒロくんは学校ないし出来るんじゃない?」

「他の仕事は何残ってる?」

「雑誌コメント。連載記事の更新。この前来た依頼楽曲の訂正。ヒナタくんとの合作。あとそろそろ動画サイトへアップする曲も作り出した方がいいね」

「多すぎるだろ」

「ヒーくんがあれもこれもと手を出すからでしょ?」



光流にそう言われて俺は何も言えなくなる。

最近は波のように依頼が頻繁に来てほとんど受けては納品した。

乗れる時に乗る。

そう思ったのが小さな間違いかもしれない。

そろそろ体が壊れる可能性が大きくなって来ているので少し恐怖心が駆け抜ける。

俺は迷いに迷った結果、依頼を受けることにした。



「ハードだよ」

「いいか?作曲家は馬鹿が多いんだ」

「それじゃあヒーくんのお父さんの事も馬鹿にしてるけど?」

「あの人は馬鹿代表だろ」



俺はパソコンのキーボードを叩きながら光流と話す。

メールの返信は早い方がいいので早速、依頼OKの返信をした。



「とりあえず今日は書く方をやるわ」

「今日終わらせた方がいいよ」

「わかってる」



またキーボードを叩き始める。

タイピングも前より早くなった。

何度も触れていると能力は上がるんだなと実感する。

俺は最初に雑誌のコメントの仕事に入った。

今回俺の特集を組んでくれるようで質問や作業環境のことを教えてほしいと連絡が入り、俺の特集とならば受けない理由がなかった。

勿論二つ返事で答えて今に至る。

しかし俺は顔出しもしていないし、声さえも世間に広めていない。

だから今回は文章で答えることになっていた。



【今人気の作曲家!ヒロ先生特集!】



以前のメールで見出しはこれにすると送られてきた。

なんだか俺の事だけが載っているページが出来るとはむず痒い。

少しニヤけてしまうけど光流もいるし顔を引き締めた。

最初にどんな作業環境で曲を作っているのかの答えを打つ。

そして曲で意識している事、自分なりの音楽についての質問に答えていった。



【作曲は誰に教わったのですか?

父親に教わりました。あと少し弟にも。音楽一家なのでわからない時は聞くことができます。】



他にも色々なジャンルの質問もあり、音楽に関係のないものも問われる。



【ご家族とは仲良いですか?

高校2年生くらいまでは父親と弟とは不仲でした。しかしきっかけがあって話していくうちに普通くらいに喋れるようになったというストーリーがあります】



俺は嘘偽りなく文字を打っていると終盤の質問で手が止まった。



【今1番会いたい人は誰ですか?】



「……光流」

「何?」

「コメントって嘘書いてもいいの?」

「まぁそれが嘘かどうかはヒーくんしか知らないし…。てかどんな質問?」

「見なくていいから」

「ケチー」


俺は見ようとした光流を追っ払ってパソコンを見つめる。

会いたい人。

そんなの決まってる。

藍子先輩1人しかいない。

でもフルネームで書いたって誰も知らないだろう。

高校の時の先輩とでも書くか。

変に模索する人はいないと思う。

結局俺は嘘偽りなく答えた。

特集の記事の仕事は30分くらいで終わる。

ただ質問に答えるだけだし、深く文章わ考えるわけではない。

しかし結構俺は疲れていた。