「よし許しが出た。今の時代は良いな。僕の時はこんな理由で休むと言ったら叱られていたよ。でもこれで許されるのは悩んでいる子供達が多いということになるけどね…」
満足してるけど苦笑いで電話から戻って来た田所先生はそう言いながら、俺が座るピアノの椅子の隣に授業で使う椅子を持ってきて座った。
意外にもあっさりと許可が出たことに対して驚きもあったが今言った田所先生の言葉で納得が行く。
鈴木先輩も悩んでいる1人だから教師陣も生徒の悩みには気を遣っているのだろう。
「さて、せっかく1時間貰ったんだ。九音の好きなように話そう」
「何を話せば…」
「んー、僕からしたら悩んでいる理由を聞きたい。でも言いづらいのに強制的に聞き出すのは効果的ではないからね。それに1時間休むという僕の提案を聞いてくれたから、次は九音の番だ」
「もし、悩みがくだらなかったらどうしますか?」
「くだらない悩みなんてないよ。でももしそうだったら残りの時間は世間話でもしよう」
なんとなくだけど、田所先生が人気な理由がわかった気がする。
授業、勉強、時間。
全て守れという縛られた常識のお堅い先生よりも田所先生のような緩い感じが今の時代有難いのかもしれない。
実際、今俺も助けられているし。
この人なら聞いてくれる。
自然と俺は田所先生に話をし始めていた。
「仲良くなりたい人が居るんです。でも、その人は対人関係がダメらしくて。今日の朝にお喋りするのを断られてしまいました」
「なるほどね。断られた理由は聞いてるのか?」
「詳しくはわからないです。でも別に俺が悪いわけではないとは聞きました」
「ん?本人に直接ではなくて?」
「また別の人から間接的にです」
「そっか。……んー、難しいな。くだらないとかよりもこの相談は重要なものだぞ」
「そうなんですか?」
「だって進路とか、学力とかは解決方法が目に見えるところにある。でも人間関係だと、見えないところに答えが隠れているからね。でも相談してくれてありがとう」
「いえ、そんな…」
「九音はどうしたい?まずはそれからだ」
「俺は…」
「思った事を言ってみろ。案外意識しないで言ったことが本心という場合もある」
田所先生の言葉に俺は深く考えるのをやめてみる。
これから鈴木先輩とはどうしたいか。
それを見つけないと作戦だって立てられない。
黙ってる俺を田所先生は待っていてくれた。
「……ダメだ。わからないです」
「何がだ?」
「どうしたいかわからないです。深く考えなくても、考えても自分が何を思っているかわからない。何でだろう…?」
「…もしかしたら今はそれが答えなのかもしれないな」
「でも答えなんて出てません」
俺は俯いて顔を歪めると田所先生は俺の肩に手を乗せる。
「これはあくまで僕の意見だけど、何も浮かばないのは何も考えたくないという表れだ。
少しこの課題とは距離を置いてみてはどうだろうか。
心無いことを言うけど、他人との関係が続くのは一握りだ。
数年したらあの時考えていた人間には感情を持たなくなる。
今の自分には必要ないって。
……すまない。
少し残酷な事を言ったかもしれない。
でも、離れるというのは1つの手段だ。
もう1度言うけどこれは俺の意見。
否定なのであれば忘れて構わない」
真剣な表情で自分の気持ちを言ってくれた先生に俺は新しい考えを得られる。
確かに距離を空けるのも作戦の1つだ。
考えもしなかった事を言われてハッとするが、果たして今の俺に距離を空けることは出来るのだろうか。
そう考えながらも田所先生に向けて軽くお辞儀をしてお礼を言う。
「いえ、他の人の意見を取り入れるのも大事なので…。田所先生ありがとうございます」
「うーん。あまり僕的にも納得はいってない意見だけどね。残り時間どうする?ピアノでも弾くか?」
「もうピアノは大丈夫です」
「それなら次は僕の質問に答えて欲しいんだけど良いかな?」
「勿論です」
「ありがとう。九音はいつからピアノを始めたんだ?」
「ピアノは幼稚園の時からです。でも2歳くらいからピアノには触らせられていたみたいで…」
「ご両親はピアノをやっていたのか?」
「父親が作曲家です。母親は歌の先生やっているので一応音楽一家になります」
「へぇー音楽一家か。でも九音はあまり音楽が好きでは無さそうだな」
急に言われる一言に固まる俺。図星だった。
「そう見えますか?」
「実際どう思っているかはわからないが、音楽の授業中はあまり楽しそうな表情ではない。それにさっき聴いたピアノで確信した。弾きたくないのに弾いている感じ」
「…凄いですね。そこまでわかるなんて」
「僕も1度は音楽やめようとしたからね。それに何人か九音みたいな奴らを見たことがある」
少し眉を下げて田所先生は笑って言った。
まだベテランの立場ではない田所先生でもそういう人達に会ってきたと思うと、俺のような人は実は沢山いるのではと思ってしまう。
先生は落ち着いた声で続きを話し始めた。
満足してるけど苦笑いで電話から戻って来た田所先生はそう言いながら、俺が座るピアノの椅子の隣に授業で使う椅子を持ってきて座った。
意外にもあっさりと許可が出たことに対して驚きもあったが今言った田所先生の言葉で納得が行く。
鈴木先輩も悩んでいる1人だから教師陣も生徒の悩みには気を遣っているのだろう。
「さて、せっかく1時間貰ったんだ。九音の好きなように話そう」
「何を話せば…」
「んー、僕からしたら悩んでいる理由を聞きたい。でも言いづらいのに強制的に聞き出すのは効果的ではないからね。それに1時間休むという僕の提案を聞いてくれたから、次は九音の番だ」
「もし、悩みがくだらなかったらどうしますか?」
「くだらない悩みなんてないよ。でももしそうだったら残りの時間は世間話でもしよう」
なんとなくだけど、田所先生が人気な理由がわかった気がする。
授業、勉強、時間。
全て守れという縛られた常識のお堅い先生よりも田所先生のような緩い感じが今の時代有難いのかもしれない。
実際、今俺も助けられているし。
この人なら聞いてくれる。
自然と俺は田所先生に話をし始めていた。
「仲良くなりたい人が居るんです。でも、その人は対人関係がダメらしくて。今日の朝にお喋りするのを断られてしまいました」
「なるほどね。断られた理由は聞いてるのか?」
「詳しくはわからないです。でも別に俺が悪いわけではないとは聞きました」
「ん?本人に直接ではなくて?」
「また別の人から間接的にです」
「そっか。……んー、難しいな。くだらないとかよりもこの相談は重要なものだぞ」
「そうなんですか?」
「だって進路とか、学力とかは解決方法が目に見えるところにある。でも人間関係だと、見えないところに答えが隠れているからね。でも相談してくれてありがとう」
「いえ、そんな…」
「九音はどうしたい?まずはそれからだ」
「俺は…」
「思った事を言ってみろ。案外意識しないで言ったことが本心という場合もある」
田所先生の言葉に俺は深く考えるのをやめてみる。
これから鈴木先輩とはどうしたいか。
それを見つけないと作戦だって立てられない。
黙ってる俺を田所先生は待っていてくれた。
「……ダメだ。わからないです」
「何がだ?」
「どうしたいかわからないです。深く考えなくても、考えても自分が何を思っているかわからない。何でだろう…?」
「…もしかしたら今はそれが答えなのかもしれないな」
「でも答えなんて出てません」
俺は俯いて顔を歪めると田所先生は俺の肩に手を乗せる。
「これはあくまで僕の意見だけど、何も浮かばないのは何も考えたくないという表れだ。
少しこの課題とは距離を置いてみてはどうだろうか。
心無いことを言うけど、他人との関係が続くのは一握りだ。
数年したらあの時考えていた人間には感情を持たなくなる。
今の自分には必要ないって。
……すまない。
少し残酷な事を言ったかもしれない。
でも、離れるというのは1つの手段だ。
もう1度言うけどこれは俺の意見。
否定なのであれば忘れて構わない」
真剣な表情で自分の気持ちを言ってくれた先生に俺は新しい考えを得られる。
確かに距離を空けるのも作戦の1つだ。
考えもしなかった事を言われてハッとするが、果たして今の俺に距離を空けることは出来るのだろうか。
そう考えながらも田所先生に向けて軽くお辞儀をしてお礼を言う。
「いえ、他の人の意見を取り入れるのも大事なので…。田所先生ありがとうございます」
「うーん。あまり僕的にも納得はいってない意見だけどね。残り時間どうする?ピアノでも弾くか?」
「もうピアノは大丈夫です」
「それなら次は僕の質問に答えて欲しいんだけど良いかな?」
「勿論です」
「ありがとう。九音はいつからピアノを始めたんだ?」
「ピアノは幼稚園の時からです。でも2歳くらいからピアノには触らせられていたみたいで…」
「ご両親はピアノをやっていたのか?」
「父親が作曲家です。母親は歌の先生やっているので一応音楽一家になります」
「へぇー音楽一家か。でも九音はあまり音楽が好きでは無さそうだな」
急に言われる一言に固まる俺。図星だった。
「そう見えますか?」
「実際どう思っているかはわからないが、音楽の授業中はあまり楽しそうな表情ではない。それにさっき聴いたピアノで確信した。弾きたくないのに弾いている感じ」
「…凄いですね。そこまでわかるなんて」
「僕も1度は音楽やめようとしたからね。それに何人か九音みたいな奴らを見たことがある」
少し眉を下げて田所先生は笑って言った。
まだベテランの立場ではない田所先生でもそういう人達に会ってきたと思うと、俺のような人は実は沢山いるのではと思ってしまう。
先生は落ち着いた声で続きを話し始めた。