やっと休憩に入れた賢希はベンチに腰を下ろして弁当用の巾着を解く。ラップに包まれているおにぎりが三つ。食べやすいようにと海苔がしっかり巻かれたそれは、いつもより大きい。一昨日おにぎりを作るグッズを買ったと聞いた気がする。朝に摂ったエネルギーが労働で消費され、空になった胃袋の虫が、ウシガエルのような鳴き声を上げる。

「いっただきまーす」

 両手を合わせて挨拶をしてから、大きく口を上げてかぶりつく。中身に辿り着かず更にもう一口、がぶり。
 口の中に広がる甘辛さは、賢希の好物である牛しぐれ煮。冷えても美味しいようにと少し濃い目に味付けされた牛肉は柔らかく煮込まれており、噛めばほろりと解けて、タレの染みた白米と絶妙に調和していた。

「うんめえ……!」

 咀嚼してゴクリと飲み下せば漏れる幸福の声を、どうしようもなく綻んでしまう口許を、誰が止められようか。自販機で買ったお茶を飲みつつ空腹に急かされてモグモグ頬張れば、表情は自然と緩々と蕩けていく。二つ目は白菜漬けの塩昆布、三つめはおかかチーズ。
 おにぎりの中身は、その日の恋人の気分と都合によって様々である。例えば焼鮭のほぐし身を混ぜ込んだり、彼女の母親が作った自家製梅干し、ケチャップライスを薄焼き卵で包んだオムライスのような物、いつだったか持たせてくれたおにぎりには半熟の味付け卵が一つそのまま仕込まれており、おにぎりを齧った途端に溢れ出た黄身に、かなり驚いた覚えがある。今回の大きいおにぎりも悪くないが、賢希としては彼女の掌に見合った俵型が好きだ。再び両手をぱんと合わせてご馳走様のご挨拶。

「ごちそうさまでした」

 愛する人が作った料理で満たされた胃袋が心地良く、退勤までまた頑張れそうだ。