「お祖母ちゃんのところに連れてってくれるの?」
 浬烏を見上げ、華衣はそっと口を開いた。平常心を装っていたが、華衣の心臓は暴れていた。頭の中で作り上げてしまったイケメンが、実体として目の前に居るのだから。唯一、無地のTシャツに細身のカーゴパンツを履いているのだけが夢とは異なっているが。
「お祖母ちゃん?」
 浬烏は華衣に聞き返す。
「お祖母ちゃんだよ! 昨日死んじゃったって聞いて、私、ここまで会いに来たのに、帰ってくるなってお母さんに言われて――」
 言いながら、涙が溢れてしまった。華衣は腕で目元を拭うと、「すみません」と小さく謝った。
「いや、いい。連れて行く」
 浬烏は華衣の前に立ったまま、右手を彼女に差し出した。華衣は何気なしにその手を取る。次の瞬間、華衣は彼にぐっと抱き寄せられた。
「ちょ、ちょっと何するんですか!」
「言っただろう。『お祖母ちゃんのところ』へ連れて行く。掴まれ」
 そう言う間に、浬烏は華衣を横抱きにする。
「え、ちょっと、はぁ!?」
 華衣がそう発する間に、浬烏は地面をたんと蹴り、空高くへジャンプする。華衣は思わず彼のTシャツを両手でぎゅっと握ってしがみついた。
「しっかり捕まっていろ」
 浬烏はそう言うと、人とは思えないジャンプ力で前へ進み、ジェット機の速さで山を抜ける。
「ひぃぃっ!」
 身体に冷たい風が次々に当たり、華衣の心臓が先ほどとは違う意味で速まる。今までに乗ったどんなジェットコースターよりも怖い。胸の辺りがひゅっとなり、華衣は恐怖の余り両目をぎゅっとつぶった。