「浬烏の、お父さんは――」
 消えた父を抱えた格好のまま空を仰ぐ彼に、華衣は訊ねた。
「父は死んだ。元より身体が弱っていたのだ。あんな無茶をするから悪い」
 そう言いながら、浬烏の顔は少し寂しそうだった。華衣は思わず、浬烏を抱きしめた。
「浬烏、ありがとう。村を守ってくれて。私を守ってくれて」
 すると浬烏は立ち上がり、お返しと言わんばかりに華衣をぎゅっと抱き寄せた。華衣は胸が早くなるのを感じ、けれどその早さすら愛しくて、たまらなく幸せになった。
「こちらこそだ。嘘でも嬉しかった。お前が、私を好いてると言ってれたこと」
「嘘……?」
 華衣は引っかかって、浬烏を見上げた。
「嘘なんか言えると思いますか? あのタイミングで」
 すると、浬烏の目が見開かれる。
「嘘ではないのか? 私はてっきり、村を守る為の――」
「嘘じゃないです! 大好きです!」
 華衣は伝わっていないことが悔しくて、だから余計に想いを伝えたくて、思いっきり浬烏に抱き着いた。
「一緒にいたいです! 子も成したいです! 離婚なんかしたくないです!」
「で、で、では、共に、かくりよに、戻ってくれるのか……?」
 なぜかどもる愛しい人の問いに、華衣は思い切り首を縦に振る。
「はい!」
「そうか、華衣……華衣!」
 浬烏はもう一度強く華衣を抱き締める。それから華衣の顎を持ち上げ、その愛しい唇に口吻を落とした。
永遠(とわ)に幸せにすると、約束するよ」
「はい……」
 浬烏の言葉に、華衣は涙が溢れ出す。
「父上、母上。お二人の大切な娘を、私が貰っても良いだろうか」
 華衣は浬烏の腕の中のまま顔だけ振り向いた。母は目に涙を浮かべ、父は困惑の表情を浮かべている。
「華衣が幸せだと思うなら、そうしなさい」
「華衣。たまには戻ってくるのよ?」
 華衣は浬烏を見上げた。
「もちろんだ。父上母上にも、必ずやまた会えるようにしよう」
 浬烏の優しい微笑みに、愛しさが溢れ出す。
「ありがとう、お母さんお父さん」
 華衣が言うと、浬烏は大切に大切に華衣を抱きかかえ、大空に舞い上がった。