「久方ぶりだ。君のことは、よく覚えているよ」
浬烏に抱きかかえられ、浅い呼吸を繰り返しながら、浬烏の父は伯母を見た。
「君の目の前で私は妻を連れ去った。病弱な妻を心配してくれたんだと、後になって知ったよ。君はとても優しい子だ」
「そんな……」
「彼女は浬烏を産んですぐ亡くなってね。でも、彼女は最期まで君のことを心配していたよ。『ちゃんと好きな人と結ばれたことを伝えれば良かった』と、後悔していた。妻が君を想っていたように、君も妻を想っていてくれたのだね」
浬烏の父が優しく口角を上げると、伯母は急に泣き出した。少女のように、わんわんと大声を上げて。
「父上はどうしてここに――?」
浬烏が、浅い呼吸を繰り返したままの父に訊く。
「神に呼ばれたんだ。二人を連れ戻せと仰せつかった。だが、心配は杞憂だったようだね」
浬烏の父ははちらりと、華衣に目配せをする。華衣は「はい」と、答えるつもりだったが、その瞬間、なぜか涙がこみ上げてきて、何も言えなくなってしまった。
すると突然、浬烏の父は無数の羽根となり、空に舞い上がった。幾つもの濡れ羽色の羽根が、空に上って消えてゆく。先端の翠緑色が、陽の光を受けてキラキラと輝いている。
「華衣さん、浬烏を頼んだよ」
最後の羽根が舞い上がる瞬間、華衣の耳元でそう聞こえたような気がした。
浬烏に抱きかかえられ、浅い呼吸を繰り返しながら、浬烏の父は伯母を見た。
「君の目の前で私は妻を連れ去った。病弱な妻を心配してくれたんだと、後になって知ったよ。君はとても優しい子だ」
「そんな……」
「彼女は浬烏を産んですぐ亡くなってね。でも、彼女は最期まで君のことを心配していたよ。『ちゃんと好きな人と結ばれたことを伝えれば良かった』と、後悔していた。妻が君を想っていたように、君も妻を想っていてくれたのだね」
浬烏の父が優しく口角を上げると、伯母は急に泣き出した。少女のように、わんわんと大声を上げて。
「父上はどうしてここに――?」
浬烏が、浅い呼吸を繰り返したままの父に訊く。
「神に呼ばれたんだ。二人を連れ戻せと仰せつかった。だが、心配は杞憂だったようだね」
浬烏の父ははちらりと、華衣に目配せをする。華衣は「はい」と、答えるつもりだったが、その瞬間、なぜか涙がこみ上げてきて、何も言えなくなってしまった。
すると突然、浬烏の父は無数の羽根となり、空に舞い上がった。幾つもの濡れ羽色の羽根が、空に上って消えてゆく。先端の翠緑色が、陽の光を受けてキラキラと輝いている。
「華衣さん、浬烏を頼んだよ」
最後の羽根が舞い上がる瞬間、華衣の耳元でそう聞こえたような気がした。