その時。
 何かが山の斜面で光り、途端に大きな風が辺りを包んだ。
「わっ!」
 飛ばされそうになった華衣を、浬烏は間一髪抱きとめる。浬烏はそのまま地上に降り、風が止むのを待った。地鳴りは止まっていた。
 砂塵が舞い、何が起きているのかは分からない。しかし、それらが収まると、浬烏の前に膝をつき、ぐったりとした様子の天狗がいるのが華衣からも見えた。
「父上!」
 浬烏は天狗に駆け寄った。華衣もつられて駆け寄る。
「ああいうのはなぁ、山の近くまで行って風を起こさなければ、止められはしないぞ」
 ぐったりした様子の浬烏の父は、浅い呼吸を繰り返しながら言う。浬烏はすぐさま父を抱きかかえ、その場に膝をついた。
「申し訳ありません、父上。ですが、どうしても――」
「華衣さんを、守りたかったんだね」
「……はい」
 華衣はそんな二人を側で見ていた。
「あなたは……」
 華衣の背後から、突然潰れたような声がして振り向いた。伯母が、現れたもう一人の天狗を見てひどく驚いていた。