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 神の声が聞こえ、華衣は走った。浬烏とのことを、神様は勘違いしている。けれど、きっと華衣がかくりよに戻らなくては、神様は納得しないだろう。
 ――だったら、直談判するしかない!
 華衣は人の世に戻った時、一番に浬烏を探した。そのくらい、焦がれている。大好きだ。だから。
「神様ーーーーっ!」
 できる限り、大きな声で叫んだ。反動で吸い込んだ空気に砂埃が混じっていて、思い切り噎せてしまう。それでも、再び口を開いた。
「私は浬烏が好きです! 離婚もしません! かくりよに戻り、彼との子を産み、暮らします! だからどうか! 山崩れを止めてください! この村を、潰さないでくださーーーーいっ!」
 はぁ、はぁと息をつき、地鳴りよ止まれと願う。
「華衣、もう限界だ! 早く逃げろ!」
 浬烏が空から華衣に叫ぶ。
「逃げないよ! 私の覚悟、神様に見せないと!」
「そんなことを言っている場合ではない!」
 浬烏は華衣に、必死な顔を向ける。そんな彼の顔が見れて、こんなときなのに嬉しいと思ってしまう。自分のために、必死になってくれているのだから。

 けれど、どうか。
 止めてください、神様――っ!