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「華衣! ……くっ!」
 浬烏はどうすべきか考えた。必死に考えれば考えるほど、山崩れを抑えることと華衣を救うことは同時にできないと悟る。ならば少しでも、華衣の逃げる時間を伸ばしてやりたい。
「浬烏、手を離すのだ」
 突然、神の声が聞こえた。
「お前も他の眷属と同じ。人に絆され、人として生きていきたくなったのだろう。ならば村ごと、お前も娘も潰してしまうまで」
 神は自分が他の眷属と同じように、人の世で駆け落ちしようとしているのだと思っているのだと、浬烏は気付いた。
「神よ、私はかくりよに戻る。だからどうか、止めてくれ」
「どうだかな。そんなの言い訳にしか聞こえぬぞ」
 ゴゴゴゴゴ。
 ついに山が崩れ始め、辺りに土埃が立ちのぼる。華衣は逃げただろうか。地上に目を向けると、華衣はなぜか、一人こちらに走って戻ってきていた。