真っ暗な蔵の中に差し込むのは、高すぎる天井近くの通気口からの光だけであった。蔵を閉じた扉の向こう側からは、ガンガン、だんだんと音が聞こえる。
「くっそう、閉じ込められたな」
「ええ……、ごめんなさい、私のせいだわ」
 父が扉を蹴って、母が泣き崩れた。
「違う、私のせいだよ」
 自分が人の世に戻りたいと、言ってしまったからだ。浬烏に想いを伝えないまま離れてしまったことが悲しくて、両親までもを巻き込んでしまったことが悔しくて、華衣は涙を流した。かくりよに残りたいと言えばよかった。もしくは、惹かれているのだと伝え、浬烏に身体を許してしまえばよかった。
 立ったまま静かに涙を流していた華衣だったが、戸の向こうが静かになると、改めて父母の前で頭を下げた。
「ごめんなさい。私が勝手だから、お母さんたちまで巻き込んだ」
 両親が顔を上げる。華衣もう一度頭を下げた。
「帰ってくるなっていう忠告も破って。逃げろっていう言葉も無視して。離婚するって意気込んで、浬烏のところに行ったのに……私……」
「いいんだよ、華衣」
 父の手が、華衣の頭に乗った。大きくて温かい。華衣は堪えていた涙が、溢れてしまった。
「お父さんたちも黙っていたのが悪いんだ。天狗に連れて行かれるなんて、信じてもらえないだろうと思い込んで。母さんが亡くなったのは偶然だったけれど、理由も言わずに『来るな』なんて言われたらそりゃ傷付くし怒るよな」
 華衣は何も言えずに、ただ嗚咽を漏らした。