「ちょっと、朝から何の騒ぎ？」
　障子戸の向こうから伯母の声がして、華衣は思わず身をこわばらせた。
「華衣が、華衣が戻ってきたんです！」
　母は歓喜の声を上げる。しかし、伯母の目が華衣を捉えると、その目はぎょっと見開き、途端に声を荒げた。
「裏切者！　この村をつぶす気か！」
　伯母は華衣の腕を掴む。するとそのまま彼女を引きずって、廊下まで出させた。伯母の大声に、祖母の家中に泊まっていた親戚が起きてくる。
「離してやってください！　神が自ら手放したのだから、村に災いは起こらないはずです」
　母が叫ぶが、それは逆効果だった。
「村生まれじゃないからそういうことが言えるのよ！　あなたは全く分かってない！　掟を破った年、村はひどい目にあったのよ！」
　伯母の怒号に、母は泣き出す。けれど華衣は、母よりも伯母が正しいと思った。自分は神に与えらえれた離婚の条件を満たしていない。
「かくりよに戻らないと」
　しかし華衣の声は小さく、母や私を責める声にかき消されてしまう。親戚たちは口々に、どうやってかくりよに華衣を戻すのか、資料を持ってこい、とにかく華衣を逃がすななどと言う。
「止めてください！　華衣は人の世に戻ってきたんですから！」
　母の叫びすらかき消され、華衣は親戚たちによって取り押さえられた。さらに、まだ早朝にも関わらず、騒ぎを聞きつけた村中の人が集まって、華衣のみならず母父までもを取り押さえた。そのまま村人たちの手によって、祖母の家の裏にある酷く暗い蔵の中に、三人は押し込められてしまった。