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 華衣は千代紙を折りながら、浬烏の帰りを待っていた。テーブルの上には、朝から折った鶴たちがたくさん並んでいる。
 もう、こんなに折ったんだ。
 華衣は、何気なしに手前にあった、薄桃色の折り鶴を手に取った。窓の外は相変わらず桜の花びらがはらはらと舞っている。手のひらに折り鶴を乗せ、桜吹雪にかざした。
 同じ色だな。
 そう思うだけで、なぜか手の上の桃色の折り鶴がかけがえのないもののように思える。浬烏が自分のために植えた桜と、同じ色というだけなのに、華衣の頬はにんまりと垂れた。
「華衣」
 浬烏の声がして、華衣は慌てて手に乗せていた折り鶴をテーブルに戻した。別の千代紙を手に取り、折っていた風を装う。
「たくさん折ったな」
 浬烏の声に、華衣は顔を上げた。
「はい。おかえりなさい。隣、どうぞ」
「ああ」
 浬烏が隣に座る。それだけで、胸が飛び跳ねそうなくらい嬉しくなる。
「なあ、華衣」
 浬烏は侘しげな顔をしながら、千代紙を手に取った。
 余りにも自分と違う態度に、華衣は彼の顔を見られなくなった。自分だけ浮かれているのが、恥ずかしい。
 だから、何でも無い風を装って返事をした。
「はい、何でしょう?」
「人の世に、戻りたいか?」