浬烏は翌日も、華衣の部屋にやってきた。朝食を用意するとそこに座り、食べている華衣をそっと見守る。華衣は見られていることに居心地の悪さと嬉しさを同時に感じ、何とも言えない気持ちになった。
「今日もお仕事ですか?」
 食べ終えたところで、華衣は指を鳴らして食器を片す浬烏に訊ねた。
「いや、今日は眷属の仕事はない」
 浬烏は言うと、テーブルの端に寄せたままだった千代紙を手に取った。
「また、教えてくれないか?」
 浬烏に訊ねられ、華衣の胸は大きくドキリと鳴った。
「まあ、いいですけど」
 あえて、つっけんどんに答える。
「鶴は難しいから、もっと簡単なやつにしましょうか」
 華衣も千代紙を手に取った。

 一日中、二人は千代紙を折り続けた。相変わらず不器用な浬烏に教えるのは骨の折れる作業だったが、それでもこの時間が心地よいと思ってしまう。
「もうこんな時間か」
 浬烏は言うと、いつものように指を鳴らす。テーブルの上に並べらえた千代紙の作品たちを端に寄せ、夕飯を出してくれた。けれど、今日の彼は立ち上がらずに、朝と同様華衣が食べ終わるのを座ってじっと待っていた。
「明日も来てよいだろうか?」
 指を鳴らして食器を片した後、浬烏は遠慮がちに華衣に訊ねた。
 明日、かぁ。
 華衣は寂しい気持ちになる。本当は、もっと一緒にいたい。けれど、「今夜は一緒にいて欲しい」など、言えるわけもない。
「はい」
 華衣が答えると、浬烏は優しくふわりと微笑み、部屋を出て行った。
 どうしよう。私、好きになってんじゃん……。
 離婚するはずだったのに。いや、離婚するんだから。華衣は布団に横になりながら、芽生えてしまった気持ちと戦っていた。