しばらく二人で笑い合い、その笑いが収まった頃、不意に浬烏が口を開いた。
「何かを作るというのは、楽しいことだな」
 華衣はふと浬烏を見る。ふわりと柔らかく微笑んだその表情に、華衣の胸はなぜかつぶされそうなくらいきゅうっと縮んだ。すると今度は、急に顔が火照る。
 ――何で!?
 胸の痛みも火照りも制御できないまま浬烏の方を向くと、なぜか彼は目を真ん丸に見開き息を呑んでいた。そんな彼の表情に、また胸がぎゅっとなる。けれど、それは一瞬のことだった。
「すまない、長居をしすぎたようだ」
 そう言う間に、浬烏の顔は何の感情もない、いつものものになっていた。
「え?」
 華衣の聞き返した言葉は届かなかったのか、浬烏はさっと立ち上がる。それから指をパチンと鳴らし、千代紙をテーブルの端に寄せた。もう一度パチンと指を鳴らすと、そこに湯気の立つ豪華な食事が現れた。
「これを食べて、寝るといい。困ったことがあれば、この鈴を鳴らしてくれ」
 浬烏は言うと、さっさと部屋を出て行ってしまう。ぴしゃりと襖戸が閉まると、途端に華衣は寂しくなった。胸にぎゅううと、切なさが押し寄せる。
 ――あれ、私……。
 華衣は胸元に手を当てた。来ていたTシャツをぎゅっと握る。ドクドクと胸が鳴っている。
 まさか、そんなはずは。
 華衣は芽生えかけた気持ちは違うと自身に言い聞かせ、作業のように用意された夕飯を淡々と口に運んだ。