浬烏は胸の内を悟られるのがなぜだか恥ずかしくなり、平静を装った。けれど、浬烏の言葉に反応したのか、こちらを振り向いた華衣の目が見開かれる。その小さな表情の変化にも、浬烏の胸は騒いだ。居心地が悪い。けれど、離れたくない。矛盾する胸をごまかすように、浬烏は足元に視線をやった。ふと、折られた紙が目に入る。
「これはなんだ?」
 手に取ってみる。
「あ、それは!」
 華衣はそれを浬烏の手から奪った。
「すまない、大切なものだったのか」
「いえ、そういうわけでは……」
 なぜかもじもじと恥じらう華衣から、目が離せない。
「紙飛行機っていうんです。折り紙遊びの一つで」
「折り紙、か。それなら知っている」
 浬烏はパチンと指を鳴らした。村の子供が紙を折り、鳥を模したものを作っているのは見たことがある。
「あ、折り鶴!」
 机の上に出したそれを、華衣は手に取った。幾分和らいだ華衣の顔を、もっと見ていたいと思う。
「華衣はこれが好きなのか」
 浬烏はパチンと指を鳴らし、たくさんの折り鶴を机の上に出した。しかし華衣の顔は急に曇る。何を間違えたというのか。
「これは見るのが楽しいんじゃなくて、折るのが楽しいんですよ」
「折る、のか?」
「そうですよ! どうせ出すなら、折り紙出してくださいよ。真四角の、色のついた千代紙です」
 華衣が初めて自分から何かを望んでくれた。浬烏はそのことに嬉しくなり、パチンと指を鳴らす。目の前の折り鶴を消し、大量の千代紙を出した。すると華衣はさっそく桃色のそれを一枚手に取り、三角形になるように折りたたんだ。
「私もやってみて良いか?」
 浬烏は思わず千代紙に手を伸ばした。なぜだか、華衣がとても楽しいことをしている気がしたのだ。
「どうぞ」
 華衣の真似をして、浬烏は濡れ羽色の紙を三角形に折り曲げた。