紙飛行機ははらはらと舞い落ちる桜吹雪の間を抜け、向こうの障子戸に当たり、そのまま縁側へと着地した。
 すると、障子戸が開く。華衣はゴクリと唾を飲み込んだ。
 中から出てきたのは、浬烏とよく似た男性だった。彼は紙飛行機を拾い上げると、華衣の方を向いた。浬烏とよく似た顔貌(かおかたち)。髪は艷やかな黒色で、その先端は翠緑(すいりょく)色をしていた。けれど幾分年老いているようで、華衣は瞬時に浬烏の父親に違いないと思った。
 彼は紙飛行機を中も見ず、ひょいとこちらに飛ばし返す。紙飛行機が窓枠を超えてこちらに戻り、華衣は失望しながら受け取った。しかし、その瞬間華衣ははっとした。こちらをじっと見る彼の、口角がほんの少し上がった気がしたのだ。
 すると彼はたちまち消え去り、代わりに襖戸を叩く音がした。
「君は浬烏の花嫁だろう。私は浬烏の父。入っても良いだろうか」
「はい」
 華衣は返事をするだけにした。先程、自分が触っても襖戸はびくともしなかったからだ。思った通り、襖戸はひとりでに開いた。そこに立っていたのは、やはり先程まで向かいの縁側にいた男性だった。
「華衣さん、会えて嬉しいよ」
 浬烏の父があまりにもにこやかだったので、華衣は毒気を抜かれた。浬烏といえば、常に無表情で何を考えているのか分からなかったからだ。
「はじめまして、華衣です」
 浬烏の父が優しそうな人で良かったと、華衣は安堵した。少なくとも、浬烏よりは話が通じそうだ。
「『助けて』とはどのような事だろう。うちの(せがれ)が、そんなに酷いことをしているのかい?」
 華衣は目を見開いた。まさか、紙飛行機の中身を読まれているとは思わなかった。