しかしご飯を平らげてしまっては暇である。試しにテレビのスイッチを入れてみたが点かないし、ポケットに入れっぱなしだったスマホはもちろん圏外だった。
「はぁーあ」
 盛大なため息をこぼし、布団に寝転がる。つい癖で点けてしまったスマホの画面を見ながら、華衣はふと思った。写真を撮ろう。あんなに、夢の世界にスマホを持っていきたいと思っていたのだから。
 立ち上がり、窓の外、満開の桜にカメラを向ける。
 カシャリ、カシャリと撮っていると、あることに気付いた。花吹雪は舞っているのに、花は全く散っていないのだ。その証拠に、枯山水の上には桜の花びらが一枚もない。
 これはきっと、見せかけの桜吹雪。一体何のために?
 疑念を胸に抱いた時、不意に縁側の向こうの障子越しに、何かが動いた気配を感じた。
 浬烏は人の世へ行っている。ということは、他に誰かいる?
 御屋敷は広いが、祖母の家のように屋根裏を動き回るの鼠の音や蛙の大合唱は聞こえない。空はつばめどころか鳥一羽も飛んでいないし、野良猫の類もいない。それどころか、他人の気配はまるで感じなかったのだ。
 ちょっぴり怖いような気もしたが、華衣はその影にひどく興味を惹かれた。もし自分がここに閉じ込められていると知らせたら、助けてくれるかもしれないと思ったのだ。
 華衣は掛けてあったカレンダーを一枚剥がし、裏返すとそこに『助けて』と一言書いた。そしてそれを折り、紙飛行機にしてゆく。ひょいと窓の外に向かって投げれば、華衣は通過できないそこを紙飛行機は簡単に通り抜けていった。