浬烏は振り返りもせずに、先ほどの場所から出てもなおさっさと歩みを進めた。砂利の敷かれた道を真っ直ぐ進んだのち、左に曲がるとすぐに、今度は武家屋敷のような邸宅が現れた。
「私の家だ」
 浬烏は一度振り返り、そう言うと開いたままの門をくぐる。華衣もついて行く他ない。玄関らしき引き戸は浬烏が通る前に自動ドアのように開き、華衣が入るとその背後でぴしゃりとしまった。そのまま長い廊下を歩くと、とある(ふすま)戸の前で浬烏は足を止めた。
「来い」
 浬烏がそこで振り返り、華衣に手を差し出した。しかし華衣はその手を取ることができなかった。彼が何を考えているのか分からないからだ。差し出された手を見つめ、じっと黙っていると、浬烏の手はぐいっと華衣の腕を掴んだ。
「わっ!」
 前のめりになった華衣を浬烏はそのまま襖戸の奥へ誘う。そして、そこに敷かれていた布団の上に華衣を押し倒した。
「何するんですか!」
 両腕をかっちりと捕らえられ、さらに腰の上には浬烏が乗っている。動けない華衣はせめて口で抗議した。
「子を成す。神はそれを望んでいる」
「子を成すって……そういう事!?」
「リコンしたいのだろう、華衣」
 至近距離で呟かれた浬烏の艶っぽい声に、華衣の背中がぞわりと粟立った。浬烏の唇が首から鎖骨を這い、羞恥と恐怖で華衣はぎゅっと目をつぶった。涙が溢れる。
 ――確かに離婚はしたい。でも、こんなの……っ!
 浬烏の右手が華衣の腕からそっと離される。華衣はその瞬間を逃さなかった。浬烏の手が服の裾を弄り指先が華衣の素肌に触れかけたその時。

 バチンッ!

 華衣は思い切り、浬烏の頬を叩いた。