「着いたぞ」
 浬烏に言われ、華衣はゆっくりと目を開いた。明るいが、目を刺すような太陽の日差しはない。空を見上げると数多(あまた)の星がこの場所を明るく照らしていて、まだ夜なのだと理解した。
 華衣はそのまま、キョロキョロと辺りを見回した。どこかの神社の境内のような場所にいた。
「ここ……」
「かくりよだ」
 かくりよという場所は人の世に似ている。けれど、どこか厳かな雰囲気があって、不思議な感じがする。
 華衣は目の前のいっそう大きな建物を見上げた。朱塗りの柱に白い漆喰の壁。キラキラと輝く屋根は銅板だろうか。
 そんな事を思っている間に、浬烏は羽をしまった姿でその建物の中に入っていく。
「来い。神に会いたいのだろう?」
「はい」
 振り返った浬烏に返事をし、華衣は慌てて彼の後に続いた。

 華衣は建物に入った瞬間、目をぱちくりとさせた。見覚えのある内装だったのだ。
 広い広間のような場所の正面には、妖しく光る二本の灯篭の中央に木製の階段がある。その上は白色と朱色と緑青色が交互に描かれた縞模様の垂れ幕のようなもので囲われていている。
 どこからか流れてくるお正月の神社のような雅楽も聞き覚えがあった。まるで生演奏のように華衣の鼓膜に届くけれど、どこにも楽器の演者などいない。
 不思議に思いながら浬烏について、階段の前まで歩み出る。するとどこからか黒漆の塗られたような腰掛が二つ現れ、浬烏の後ろに着地した。もう一台は浬烏の横に着地し、浬烏は目線で私にそこに座るよう促した。
「浬烏よ、よくぞ連れ戻った」
 二人が腰かけた瞬間、どこからか太い男性の声が聞こえた。それは華衣の脳内に直接響くようにも、この広い建物にも響くような不思議な響きだった。
「神、華衣が申したいことがあると」
「何だ?」
 どうやらこの声の主は神様であるらしい。華衣は緊張で肩を吊り上げたまま、けれど浬烏に目くばせされて思い切り息を吸い込んだ。そして、一息に言う。
「浬烏さんと、離婚させてください!」